吹奏楽 マーチング ダンシング

パフォーマンスで、感動を共有できることは、、、幸せだ

連載 吹奏楽部 MEMORIES 15

 

ビートルズがやって来た。
ビートルズ日本公演」である。 昭和41年のことだ。 私は小学校六年生だった。

私は、まったく関心がなかったが、、、
マスメディアの威力は凄まじい。 クラスの女の子達の話題は、ビートルズ一色になった。

ブームがブームを呼んで、群衆心理か集団催眠か。
もしかしたら、、、 日本中の、10~25才の女性のほとんどが、ビートルズカラーに染まってしまったのではなかろうか。。。

しかし、、、 その彼女たちも、今では63~78歳である。

今でも、若者のなかにビートルズファンがいるということは、すごいことだと思う。
ビートルズ ブームは、 日本のポピュラー音楽のレベルを底上げしたという点で、画期的なことだった。 それほど、ビートルズの創り出すサウンドは、斬新で質が高かったのだ。

それまでの日本は、ゆるいロック系ポップス・モドキしかなかったのだ。

しかし、ビートルズは斬新すぎて、わたしの脳では対応できなかった。

当時の男性ボーカルは、低いソフトな声で歌うのが主流だったが、ビートルズは高い声のコーラスが多いので、私には子供っぽく聞こえた。
そして、ギターの甲高い音が耳障りで、感動も高揚感もなく、、、 どうして、そんなに人気があるのか、私には理解できなかった。

例えるならば、、、 コショーをかけたラーメンを食べても、コショーの味しか感じていなかったということだ。この時点で、私の脳は「ロック」に適応出来ていなかった。

ジャズに夢中になっている時期だったので、なおさら馴染まなかったのだろう。
フォービートとエイトビートの違いもあったが、、「ロック」そのものに、私の脳が反応しなかった。

私が、「ロック」に反応するのは4年後のことになる。

 

 The Beatles- Day Tripper ( Official Video)   

https://www.youtube.com/watch?v=AYZlME0mQB8

 

 中学の新入生歓迎会で、、、 私は初めて、吹奏楽のステージ演奏を観ることができた。

小学校と違って、中学生のやることは、スケールが違うと感動したが、反面、、、 サウンド面では失望した。

プロの、、、 ジャズのビッグバンドと比較すべきではないが、、、 私は、それしか聴いたことがなかったのだ。

リズムが甘いというか、、、ノリが悪い。それどころか、時々、パーカッションと金管の低音部がずれたりする。 音質も悪く、メリハリもなく、、、 全体的に、だらだらした感じに聴こえた。

さんざんな評価であるが、、、 第三者の立場から、素直に、そう感じたのであった。

ピッコロが、初めて、我が吹奏楽部の演奏を聴いたときの評価が、私と正反対であることは興味深い。

ピッコロのほうが、私よりも、何十倍も音楽的な能力が高かったのに、我が吹奏楽部が「とても難しいことをやっている」と勘違いしている。 我々二人の、どちらが聴いたものも、レベル的には、たいして、かわらないはずなのに、、、

彼女と私は、脳の構造が違うのだ。 彼女のほうが優れているに決まっているのに、、、 不思議なことである。


「難しい」と言えば。。。

ピッコロが二年生の時の、一年生に対する指導を思い出す。 この一年生は、幼稚園の年長さんからピアノ教室に通っていたが、フルートは未経験で入部してきた。

夏休みの、パート練習で、、、 私がみていると、 この2ndの一年生がミスをしたらしく、「そんなに難しくしなくていいのよ。自然に吹くだけでいいの。。。」

ピッコロが、皮肉を言う性格ではないことは誰でも知っている。この時のピッコロは素直に指導しているのだ。

私が、この一年生の立場だったら、「自然に吹けないから、こうなっているんだろうが。」と思って、まともな返事はしなかっただろう。 しかし、この一年生に、そのような様子はなく、はっきり「はい!」と返事をしていた。

私は、「ピッコロは、教え方がヘタだな。」と、この時は思った。

ところが、、、 この後、この一年生は有力高校に注目される存在なるのに、たいして時間はかからなかった。 半年に満たない経験の一年生の二人が、驚異的に上達していたのだ。

それは、三年生のパートリーダーが、教え上手だっただけではなく、ピッコロのカリスマ性と優しさが、二人のやる気を出させるには十分だったからである。

そして、ピッコロのアドバイス、、、「自然に吹くだけでいいの。。。」の意味を理解するのに、私は、長い年月を必要とした。

ピッコロのアドバイスは、ミスを指摘したものではなかった。 演奏自体を「自然に・・・」と言っていたのだ。

吹奏楽のことも、ピッコロのことも、とうの昔に忘れてしまっていた40年後、私は、、、 ふと、「自然に聴こえる演奏って、それだけで凄いことだな、、、」と思ったことがあった。
その時、目の前で、稲妻が光った思いだった。そう、、、あの時の「自然に吹くだけでいいの。。」

ピッコロは、さりげなく、そう言って、、、 2ndの一年生は、はっきり「はい!」と返事をしていた。

二人は、私という凡人の前で、、、高次元の会話をしていたのであった。 「天才のすることに、凡人は口を出すな。」という言葉が当てはまる、典型的な例だと思う。

 

 Flute & Guitar: Spanish Love Song (album APASIONADA) Jane Rutter Flute   

https://www.youtube.com/watch?v=J7IC8bOCpZA

 
それでは、ここで、また、つまらない私の話に戻りたいと思う。。。
私は、「新入生歓迎会」の時点で、吹奏楽部に入るなんて夢にも思っていなかったのだ。

音楽の授業でやっていた、リコーダーや木琴の時のテイタラクを考えると、、、  私が楽器を演奏するなんて、有り得ないことであった。

私は、剣道部に入部した。。。

希望に燃えていた。 やる気はMAXだった。
しかし、入部して一ヶ月もしないうちに、私のやる気をどん底まで落としてくれた先輩達がいた。

ある日、、、 部室の前に、剣道の防具や竹刀が散乱していた。 無造作に、散らかっていたのだ。

私は、竹刀や防具をまたいで部室に入った。
すると、、、 三年生が、「お前、今、俺の竹刀をまたいだな! 剣は神聖なんだぞ。またぐときに、防具も蹴っただろう。」
「すみませんでした。またいだけど、蹴ってはいません。」
剣道は、素足であるから、触っただけでも気が付くはずである。 そもそも、散らかしておいて、「神聖」はないだろう。。。

しかし、変なやつはどこにでもいるものだ。この場は、波風を立てずに切り抜けようと思っていた。

ところが、、、 ほかの三年生もこの「変なやつ」に同調したのだ!

私は、、、 何も言わずに、この異様で「神聖」な場所を立ち去って、二度と戻らなかった。

私は、翌日から放課後はすぐに帰宅した。
しかし、家にいても落ち着かなかった。いま、この時間、、、 私と同じ一年生たちは、部活に打ち込んでいるのだ。

次の部活を決めるために、他の部活を物色することにした。

一週間、一年生と目を合わせないように、こそこそと色々な部活を見て回った。 しかし、やる気になれるものはなく、校庭の土手の上に座って、何となく陸上部をながめていた。

すると、、、 自分の目を疑う光景が、、、

砂場のところで、空中を走っている人が目に入ったのだ。 走り幅跳びだった。 当時は、空中で走っているみたいに足を動かす「はさみ跳び」が主流だった。

しかし、空中での滞空時間が長い。 普通ではなかった。
実は、、、彼は、関東大会の記録保持者の三年生だったのだ。

私は、、、この一瞬で、走り幅跳びに憧れた。そして、この日、陸上部に入部した。顧問の先生は、出張でいなかった。

翌日、意気揚々と陸上部に参加した。
準備運動が終わると、、、 男子は全員で、裏山の戦没者慰霊塔まで走るのだという。慰霊塔までは、坂が続く2kmである。個別競技の練習は、その後である。

私は、この慰霊塔で心が折れた。 坂道で同じ一年生についていけなかったが、、、 足に自信のある奴らが、すでに、一ヶ月間、鍛えているのだ。ついて行けるわけがない。私は、5分近く遅れて、倒れそうになりながら慰霊塔についた。

遅く陸上部に入って、しんどいだけなら耐えられたかもしれない。同じ一年生に追いつくことが目標になるからだ。

慰霊塔では、先に着いた全員が休んでいた。
私は、陸上部では二度目であるが、ここで「目を疑う光景」を見てしまった。

先に着いた三年生達が、慰霊塔に供えられている果物を食べていたのだ。 この三年生達は、供えた人の気持ちが分からないらしい。 戦争の体験談を、父や戦友さん達から聞いていた私には、理解しがたい行為だった。

季節外れの、高価な果物を片手に、「おまえ、遅かったから、家に帰ったのかと思ったよ。」
この冗談で笑っていたのは、果物を手にしている三年生達だけだった。

私は、この後、トレーニングを中断して、本当に家に帰った。 当然、陸上部は、この一日でやめた。

また、部活ニートになってしまった私であったが、、、
もう、探す意欲はなくなって、さっさと家に帰る毎日をおくっていた。

そんな、5月の下旬、、、

昼休みに、教室の窓から中庭を、ぼんやりと見ていると、、、
「部活、やってないんだって?」
クラスで一番のイケメンが声をかけてきた。

彼は、吹奏楽部でトロンボーンをやっている。
彼は、真顔で「好きな音楽があるか?」

「好きなのは、ジャズだけだよ。。。」

この時の、彼の、顔の表情の変化を、今でも忘れずにおぼえている。

うまく表現できないが、、、
呆然と私の顔を見ている感じで、、、 すぐに、目をそらすような感じで、、、 中庭を、数秒見ていたが、、、 気を取り直すように私に向き直り、突然、明るい表情になって「憧れる楽器ってある?」

急に親しげな話し方になったので、私の心は肩透かしをくらって倒れそうになったが、私も、すぐに気を取り直して、「ドラムっていいよな。。。」

彼は、、、ヤッター!という思いきりな笑顔で、「打楽器の一年生がやめちゃったんだよ。吹奏楽やらないか?」

「無理!無理! 俺、あんなにバラバラに動けない。」

「大丈夫! シンバル→バスドラ→スネア→ティンパニー→ドラムスって練習していくから、誰でも出来るようになるよ。」

「でも、俺、スネアを、、、あんなに細かく叩けるようになるとは思えないし、、、楽器を買う金もないし、、、」
この時の私は、とことん卑屈であった。

呆れた彼は、、、しばらく天井を見つめてから、「楽器は、揃っているから自分で買うのはスティックだけだよ。まぁ、それはいいけど、今日、家に、遊びに来ないか? 部活、終わってからだけど。いいかな?」

どうせ、暇だったので、「じゃあ、終わるの待ってるよ。」

この日、彼の家に遊びに行ったことで、、、
私は、音楽という、一生の親友ができることになる。。。

 

The Trombone Meets The Bumblebee  

https://www.youtube.com/watch?v=kGgUK2s-sqA

www.youtube.com