連載 吹奏楽部 MEMORIES 9
知り合いからメールが来た。
「本筋から外れている下書きは、使わずに、ハードディスクに残っているはず。溜めておくと、ハードディスクが腐るぞ。全部、吐き出せ。」
この知り合いが言いたいことは、「吹奏楽部MEMORIES」の続きを書け、 ということであるが、、、
さすが! 彼は「物書きのはしくれ」である。
たしかに、、、 ハードディスクの中には、下書きの残骸が大量に残っている。
そして、この残骸の一つひとつは、思い出であり、人生の痕跡なのだ。
ハードディスクに残しておいても、永久に埋もれてしまう。 確かに、このままでは、もったいない。
「物書きの成れの果て」の意見を取り入れて 、、、 あ。。。 少し違った。
「物書きのはしくれ」の意見を取り入れて、、、 ハードディスクの中に散らばっているデータを公開するべきだ。っと言うことで、、、
当時の、関係者の批判はかわしつつ。。
「吹奏楽部 MEMORIES 9」の、
始まり、始まりぃ~。
今回は、音楽とは関係のない校内強歩大会の話である。
男子は、10kmのアップダウンのきついコースで、女子は、6kmの比較的平坦なコースである。
強歩大会といえば、、、 ヒーローは、いつも陸上部である。
しかし、当時の陸上の部員達は、強歩大会が近づくにつれて、ナーバスになっていく傾向があった。
それは、、、 ほかの、運動部に負けたものは、一週間、毎日、裏山を走り続けなければならないというペナルティが課されるからだ。
そのペナルティを「地獄の山巡り」と言う。
ヒーローになるか、地獄に落ちるかということであるが。。。
ほかの運動部の奴らは、陸上部を「地獄」に落とせば、それが勲章になる。
昨年は、、、 男子が、サッカー部に二人やられた。 女子は、バレーボール部に三人。。。
ここまで、やられるとナーバスになってもしかたがない。
【フルート】夜に駆ける/YOASOBI
https://www.youtube.com/watch?v=TIjZUVmt1Eg
私は、スタートから、ゆっくり走った。 スタート直後は、みんな先に行ってしまって、置いていかれたような感じになるが、3km地点を通過する頃には、歩いている者たちを追い越し始める。
こんな走り方でも、5kmを越えた頃には、前方に見えるのは運動部ばかりである。
そして、後ろを振り向いたら、、、 何と、吹奏楽部の大集団が出来上がっていた。
一旦は、歩いていた彼らが、途中から私についてきたのだ。
日頃、肺活量を増やすための運動をしている彼らであるから、ゴールが近づいた頃には、私を追い越していくだろう。
6km地点を過ぎた頃から、運動部の奴らが歩き始めた!
卓球・バスケ・バドミントン・テニスなど、、、 どんどん脱落していく。
そして、陸上部キラーのサッカー部!
サッカー部の奴らは、頭から水をかぶったように、ウエアーがびっしょり濡れて、汗の塩分の縞模様ができている。
どうやら、陸上部に勝負を挑んで潰されたみたいだ。
これはっ!
もしかすると、陸上部と吹奏楽部のワンツー フィニッシュという、とんでもないことが起こりかねない状況になってきた。 そんなことになったら、我が校の歴史に残るだろう。
私は、後続の仲間達の方を振り返った。
しかし、そこには誰もいなかった。。。
肺活量達は根性がなかったのだ。
結局、終わってみたら、私と陸上部の間には、ほかの運動部が数十人いたので、どうでもいい事ではあったのだが。。。
男子コースは、、、 6km地点から陸上部だけが、先頭集団を形成するという、つまらない結果に終わった。
【フルート】元気を出して/竹内まりや
https://www.youtube.com/watch?v=G9WXE6L3puM
一方、女子コースは、最初からとんでもない展開になっていた。
スタート直後に、、、 陸上部キラーのバレーボール部が仕掛けたのだ。
陸上部のリズムを乱そうとする、姑息な作戦である。
2km地点までは、、、バレーの半数が先行。続いて陸上、また、続いてバレーの残りの半数というかたちのまま、先頭集団が維持されていた。
陸上の女子は、髪がまるで男子のようなショートカットであり、バレーはショートより少し長い、ボブくらいの長さである。
先頭集団は、、、
ボブ→ショート→ボブの順番であるが、例外はあった。
後ろのボブ集団の中に、一本にまとめた長い黒髪をヒョコヒョコと弾ませている小柄な一年生がいる。
ピッコロである。
さすがは、小学校低学年から走り込んでいるだけはある。 2km地点で、先頭集団に吹奏楽部がいるなんて、初めてのことだろう。
しかし、それもここまでだった。
先頭の、バレーのボブ達がペースを上げたのだ。 ショートヘアーたちは、あまり離されない程度についていく。
3km辺りから先頭のボブが、ひとり二人と脱落していって、先頭はショートだけになったが、、、 これは、バレー部の作戦通りである。
4km地点では、、、 先頭集団は、ショートヘアーだけ。
第二集団は、ショートヘアーの一年生ふたりと、その二人にピッタリとくっついて追従する、ボブ集団+ロングの黒髪になった。
ここからの、第二集団の1kmは激しいバトルになった。 ショートとボブが頻繁に入れ替わるのだ。
まるで、はぐれた若鹿をいたぶるハイエナの群れのようだ。
ロングの黒髪はバトルの後ろを、何を仕掛けるでもなく、淡々と、追走している。
この時、並走している原チャリから激が飛んでいた。
原チャリを運転する若手の体育の先生の後ろに、陸上部の顧問の先生がメガホンを片手に乗っている。
あ。。。
教師が、原チャリの2人乗りをするわけがない! これは、私の記憶違いである。
ここで、お詫びと訂正をする。
この二人は、単なる◯士舘大学のOBである。 そして、単なる先輩後輩の間柄である。
この1km間の、バトルを制したのは、若鹿達であった。
ハイエナたちは後方に消えていった。
Camila Cabello - Havana (Flute Cover)
https://www.youtube.com/watch?v=1kT_YkqmQLc
しかし5km地点で、メガホンが叫んだ!
「ブラバン! 4秒ッ!」
「ブラバン」とは、ブラスバンドの略である。 ピッコロが20~30m後方に迫っているということである。
若鹿たちは、背筋が凍る思いだっただろう。
ほかの運動部に負けただけでも、一週間、地獄の裏山を走らされるのだ。
文化系の「ブラバン」に負けたら、単なる◯士舘大学のOBから、何をやらされるのか分かったものではない。
ピッコロは、「地獄巡り」の意味を理解していないらしく、真面目に追走している。
しかし、、、 若鹿たちは、度重なるバトルで力を使い果たしてしまった。 もう、余力はない。
三人は、このままゴールのある中学校の運動場に入ってきた。 あと300mでフィニッシュだ。
運動場では、先にゴールしている、陸上部の女子達の声援に迎えられるかたちになった。
声援を受けているのは、若鹿達だ。
女の子の声はよく響く。
それが、「ブラバン」に追われていることに気がつくと、物凄い騒ぎになった。
しかし、この物凄い騒ぎを突き抜けて、ピッコロを応援する声が響き渡った。
吹奏楽部の顧問の先生の美声である。 先生は、音大の声楽科のテノールである。素人の声とは違う。
運動場の外まで届いている。
この時、ピッコロがラストスパートをかけた! 凄い追い込みである。
ピッコロは、陸上部の二人を追い越してしまった!
陸上部の声援は、もう、ほとんど悲鳴に近い。
しかし、この前代未聞の吹奏楽部の活躍に、狂喜乱舞のテノールの声援の方が勝っている。
大人げないとも言えるが。。。
ところが、、、 ゴール30m手前で、ピッコロが失速してしまった!
レース慣れしていないピッコロが、力を使い果たしてしまったのか、、、テノールの声援を真面目に聞いて、頑張りすぎてしまったせいなのか。。。
先に、ゴールに倒れ込んだのは、ショートヘアー達だった。
若鹿たちは、地獄の裏山から免れることはできたが、、、 このレースそのものが地獄だったことは間違いない。
そして、ピッコロは、、、
陸上部とワンツー・フィニッシュという、偉業を成し遂げたのだ。
しかし、話はこれで終わりではない。
翌日から、裏山を走る一団があった。
文化系の「ブラバン」の一年生に負けた、バレーボール部の女子達であった。
翌年の強歩大会から、、、 ピッコロは、運動部集団の後ろを走るようになった。
Philippe Gaubert - "Fantaisie" - Pałac w Jabłonnie 21.05.2017 r. , Marianna Żołnacz -flet
https://www.youtube.com/watch?v=XWQKliyOiT0