吹奏楽 マーチング ダンシング

パフォーマンスで、感動を共有できることは、、、幸せだ

連載 吹奏楽部 MEMORIES 14

 

今回はつまらないことを、詳細に書こうと思う。。
つまらない事とは、自分のことである。
まぁ。。。音楽脳とか、JAZZの基本などにも触れるので、、、 多少は期待してもらっても良いかもしれない。。。


私の家に、ポータブルステレオが届いた。

いまから、五十四年前の、、、 私が、小学校五年生の時のことである。

ポータブルステレオとは、、、 早い話が、安物のオーディオである。

何かの懸賞に当たったのだった。
六人家族は、大騒ぎであった。

それまで、我が家には、音楽を聴くための、専用のオーディオのようなものは無かったのである。
音楽を聴けるものは、テレビとラジオだけであった。

父が、「子供はさわるな!」

と言われると、、、 子供は、本能的に「これは大切なものだ」という認識をもつ。 そして、同時に「触りたい。。。」という欲求が沸き上がってくる。

このポータブルステレオには、ソノシートと呼ばれるペラペラと薄いレコード盤が、二枚オマケでついてきた。

一枚は落語で、、、 落語家の名前は忘れたが、、もう一枚は「イン・ザ・ムード  グレン・ミラー楽団」とあり、内容は音楽らしい。。。
父は「アメリカの音楽だよ。」と言っている。

アメリカの音楽・・」と聞いたとたんに、みんな、興味を失ったらしく、、、 先に、落語を聞くことになった。

ターンテーブルが回り始めると、子供達は、目をうばわれた。 メカである!

男の子にとって、メカは強烈な刺激であり、自分をパワーアップしてくれるものであり、現実からの逃避であり、生き甲斐である。 だから、どうしても、所有したい物なのだ。

母は、お茶の支度をしに台所に立ったのだが、、この落語は三分間程度で、途中で終わってしまった。 「オマケ」と言うのは、こんなものである。

しかたなく、みんなでお茶を飲みながら「イン・ザ・ムード」を聞くことになった。

皆が、黙って聞いていたのは30秒程度で、関係のない話が始まり、あげくのはては、テレビを見ようということになった。

「イン・ザ・ムード」は中断されて、、、 ポータブルステレオは、となりの部屋に片付けることになった。

音楽を聴くなら、テレビの歌番組の方が良いと、皆が悟ったのだった。ポータブルステレオでは、映像が映らない。 これは、決定的な欠陥であった。

しかし、翌日。。。
学校から帰ると、、、 兄達が、勝手に動かして、落語を聞いていた。

中学生は、子供ではないらしい。

私は、興味がないふりをしていた。 これは、心理作戦である。

さらに、翌日。 ポータブルステレオは、誰にも相手にされなくなっていた。 だが、まだ早い。。。

そして、その翌日!
私は、小さな音で、「イン・ザ・ムード」を聴きながら宿題をやっていた。

しかし、宿題が進むわけがない。 私の横では、メカが作動しているのだ。 しかも、見よう見まねで、私が動かしたものなのだ。 今現在、興奮状態である。  しかも、家族にとがめられるかもしれない。

兄が、外から家に入ってきて、私の後ろで立ち止まったが、何も言わずに外に出ていった。

我が家では、宿題等の勉強をしている者のじゃまをしてはいけないという掟があった。 だから、話しかけてはいけないのだ。

私の作戦は、成功しつつあるようだ。 しかし、完全勝利のためには、、、 ポータブルステレオを鳴らし続けることと、勉強をし続けること。。。 これを、不自然であっても、やるしかない。

私が、ポータブルステレオを使うことを既得権にするには、これを続けるしかないのだ。

しかも、家族全員が興味を失っている今、、、 頑張れば、私が、独占出来るようになるかもしれない。

 

 The Glenn Miller Orchestra -- (1941) In the Mood [High Quality Enhanced Sound]

https://www.youtube.com/watch?v=6vOUYry_5Nw


一週間後。。。 すでに、独占体制に入っていた。

「イン・ザ・ムード」を、小さな音でかけながら、勉強をしたり、、、ふりをしたり、していた。

私は、、、 メカを操作することと、所有することの、喜びに浸っていたのだ。 家族のなかで、もっとも立場の弱い私が、このようなビッグチャンスに恵まれることは二度とないかもしれない。

しかし、不思議なことに、、、 家族からの干渉はまったくなかった。

今、思うと、、、 「あんなに勉強をすることは、滅多にないんだから、そっとしておかなければダメだよ。」とか、何とかいう指令が、母から出ていたのだろう。

この時点で、、、 「イン・ザ・ムード」だか何だか知らないが、、、 このアメリカの音楽は、どうでもよかった。 ただ私は、メカを獲得しようとしていただけだったのだ。

だから、このサウンドは、鳴っていても邪魔ではないという程度のものだった。 まだ、私の脳は、ジャズを聴く構造にはなっていなかったのである。

 

 

それから、一週間だったか、二週間だったのか、どのくらい後だったのか忘れたが、、、 いつもの、おじさんが、いつも通り、酒の一升ビンを吊るしてやって来た。

この人は、私の父の戦友である。 二人は、大東亜戦争において、何度も戦闘を経験して、、、
弾の下をくぐって、生きて帰って来た仲間なのである。

私が、「イン・ザ・ムード」を聴きながら一人遊びをしていると、、、

「ジャズを聴くのか?」と聞かれた。
わたしは、「えっ?」

「ジャズ」という言葉と「イン・ザ・ムード」が結び付かなかったのだ。

戦友さんは、私がジャズを好きで、いつも聴いているのかという意味の質問をしたのだったが、、、

父が、「ずーっと聴いてるぞ。」と言ったものだから、、、 戦友さんの中では、ジャズ好きの小学生という事実が出来上がってしまった。

「大したものだな!! ベニー・グッドマンは聴いたかな?」

「聴いたコトないです。」

「グッドマンはいいぞ~。」

大したものだと言われて、嬉しくなってしまった。 ジャズは聴いているだけでも、大したものになるらしい。。。
私はこの日、「ジャズ」という音楽と、「グッドマン」という音楽があることも認識した。

この戦友さんは、月に二~三回は、我が家に来ていた。 が、、、この時は、特別に三日後に戦友さんが現れた。

右手に一升ビン、左手にLPレコードを持っていた。

そして、私に、、、
「グッドマン!持ってきたぞ!」

レコードジャケットの表側は写真で、、、 見たことのある楽器を持ったおじさん達が沢山写っている。

一番、目立つのが、、、 パイプを伸ばしたり縮めたりして、パーパーいうラッパである。

レコードジャケットの写真に写っている、ほとんどの楽器を、私は見たことがある。中学生や高校生が行進するときに使っている楽器だ。 「グッドマン」て、行進しながら演奏している音楽のことだったんだ!

戦友さんは、ジャケットの隅でリコーダーを持っている、メガネをかけたおじさんを指差して、「ほら、これがベニー・グッドマンだよ。」

なんだ、、、人の名前だったのか。。。

「このリコーダーは、金属の飾りがいっぱい付いているね。」

「ハハハ。これは、リコーダーじゃなくて、クラリネットっていうんだよ。そして、飾りじゃない。演奏の時に操作するんだ。無駄なものは、何もついていない。」

うッ。 メカだ!

クラリネットって、どんな音がするんだろう。。。
さっそく、LPレコードを聴いてみた。

聴いてみると。。。
どの音がクラリネットか分からなかったが、、、それよりも、グッドマンは、行進の時の音楽ではないことに気がついた。

そして、「イン・ザ・ムード」と同類のジャズであることにも気がついた。

私の脳は、「イン・ザ・ムード」を聴き続けてきたことによつて、ジャズを識別できるようになっていたのだ。 それも、理屈や知識ではなく、感性で!

しかし、「感性」とはいっても、私は、ジャズを好きになったわけではなかった。

ターンテーブルの上でグルグルまわる、黒光りをした直径30cmの LPレコードの迫力に満足していた。 これは、私が、所有するレコードなのである。

兄達が見に来た。
まわっているLPレコードを見たとたん、視線が釘付けになった。

ヤバい!! 陸上競技円盤投げの真似事に、レコードを使いかねない連中なのだ。

すると父が、「お前達は、このレコードに触るなよ。」
よく分かってらっしゃる。

やったー! 完全勝利である。
あとは、私が留守中の隠し場所さえ確定すれば完璧である。

LPレコードは素晴らしい。。。 ソノシートは片面しか曲が入っていないが、LPは両面に十数曲入っている。

今までは、三分ごとにかけ直していたが、、、 LPは、一度操作すれば、三十分間は、次々に曲が流れ続ける。

しかし私にとって、この十数曲はどれも同じようなものだった。 ジャズというだけで、どの曲も同じように聞こえた。 私のジャズ脳は、その程度のものだった。

私は、このLPを毎日聴いた。
というか、、、 毎日、使い続けていた。 宿題をやりながら、、、 一人遊びをしながら、、、

私が、このポータブルステレオを使わなくなったらどうなるか。。。
いずれ、、、 雨の降る庭に転がっている。 なんてことも、充分に起こりうる。

使い続けることで、権利を維持できるのだ。

充実した毎日だった。 新車を手に入れた青年のような心境であった。

本当は、、、 流行歌のレコードも欲しかった。しかし、それを買ってもらったりしたら、、、
兄弟で仲良く聞きなさい、ということなるのは、目に見えている。 そうなったら、あっという間に、兄達に主導権を握られてしまうだろう。

私は、常に、立場が弱いのだ。そうなったら、元も子もなくなってしまう。

流行歌のレコードは我慢するしかなかった。

 

そして、、、 数か月後のある日。。。

母が、、、 「貧乏揺すりだと思ったら、音楽の調子をとってるんだね。」

宿題をしながら、ジャズに体を揺らしていた。いつの間にか、ジャズが気持ち良くなってきていたのだ。

まだ、ソロの部分などはグシャグシャに聞こえていて、何か知らんけど難しいことをやってる感、だったけど、、、 明らかに、ジャズに脳が対応できるようになってきていた。

楽しい気持ちで、していることには、脳が急激に変化して適応していくと聞いたことがある。 ポータブルステレオを所有することが楽しくて、ジャズに適応していったのだろうか。。。

新しいジャンルのサウンドが好きになると、今まで好きだったものが色あせて感じてしまう。

この時代は、、、 家族そろって、テレビの歌番組を見ることが普通であったが、、、 私にとって歌番組はつまらないものになってしまった。

家族の、みんながテレビを囲んでいるときに、、、 私一人は、居間から一番遠い部屋でジャズを聴いていた。

よくある、、、 変わり者の道を歩み始めたのだ。

戦友さんから頂いたLPは3枚に、なっていた。
このころから、、、 私は、本物のジャズ好きの少年に進化していた。

 

Lullaby Of Birdland  バードランドの子守唄 中村八大    

https://www.youtube.com/watch?v=MoXIVo1tA9Y

  

六年生の秋。。。
父が、ジャズのチケットを2枚もらってきた。

演歌などとは違ってジャズは人気がなく、チケットが大量に売れ残ってしまったそうだ。
その売れ残りを、全て、燃料屋が格安で買い取った。
燃料屋は、これをサービスで顧客に配っていたのだが、、、
ただでも、いらないという人が多く、、、それを父がもらってきたのだった。

本当に、、 日本人には、ジャズは合わない。 ジャズ好きは、常に、少数派である。

チケットには、「中村八大 ジャズトリオ」と書いてある。 父は、私と一緒に行ってくれることになった。

大きなホールだった。 だから、空席は多かった。 しかし、私はファンでもなんでもなかったので、そんなことはどうでも良かったのだ。

それよりも、、、 閑散とした広いステージに驚いていた。 私は、ジャズなのだから、グレン・ミラーベニー・グッドマンのような楽団を予想していたのだ。

ところが、開演前で演奏メンバーのいないステージにはグランドピアノとドラムが置いてあるだけだった。

私は父に、「何人で演奏するのかな。。。」
父は、「トリオだから三人だろう。三人組のことをトリオっていうんだよ。」

「え・・・」三人でジャズが出来るのだろうか。。

父が「ピアノとドラムと、、、 あと、何かだろう。」

すると、、、 ステージの右側から、バイオリンがでかくなったみたいなやつを持った人が出てきた。そして、次は、ドラマーが、、、
そして、少しもったいぶってから、中村八大が現れた。

私は、しっくり来なかった。 見た目、その辺の、どこにでもいそうなオッサン達である。 私にとってジャズといったら、ビッグバンドの白人達なのだ。

しっくりこないまま、まわりに合わせて拍手をしていた。

拍手が静まると、挨拶もないまま、いきなり演奏が始まった。 ピアノのソロからだった。

私は、驚いた。 ピアノのソロは、まぎれもなくジャズなのである。

ジャズのライブであるから、当たり前なのであるが、、、  さっきまでの、オッサン達のイメージとの落差が大きすぎるのだ。

特に、ピアノの音が美しすぎる。 小学校のグランドピアノと同じ楽器だとは、到底思えない。

いま思えば、、、 中村八大が、どんな楽器を弾いたとしても、私は、同じように美しく感じたと思うが。。。

それだけ、私の脳はジャズに対応できるようになっていたということだ。

そして、ドラムとウッドベースが入って、サウンドはピアノトリオになった。 私は、この時の感動を今でも忘れていない。

ベースの刻むフォービート。。。 そこにあるのは、紛れもないジャズなのである。 当たり前であるが。。。

このフォービートは、普通、日本人が持っていないものである。

日本人がカウントをとると、、、
「イチ・ニィ・サン・シィ~」となる。
ゆるいのだ。

しかし、白人や黒人は、、、
「イッ・ニッ・サッ・シッ」と、厳しさがある。
彼らの音楽は、ほとんどがこの厳しさを伴っている。

その中でも、ジャズは特別である。 針の先端を付き合わせるほどの厳しさがあるのだ。

だから、ビッグバンドジャズであろうと、トリオであろうとフォービートと呼ばれるのである。

私は、この時、足のかかとで床をトントンやっていた。 カーペットで音がでなかったので、けっこう鋭くやっていた。 私の脳と体は、フォービートを演奏していたのだ。

快感であった。 家で、畳の上でヒザを揺すっていると、貧乏揺すりのようでビート感が出にくいが、椅子に座ってかかとを鋭く床に当ててフォービートをやっていると、複雑なリズムのサウンドも、気持ちよくノリノリになってくる。

日本人は、スローバラードは好きな人が多いが、アップテンポのジャズが馴染まないのは、、、 このビート感なのだと思う。

ジャズという音楽は、このフォービートを、、、 聴く側の「脳」や「からだ」が演奏していることが前提条件なのだと思う。

そして、このフォービートというしっかりした土台の上で、「気持ちよく弾む」。 これがスイングである。

弾み方は、定規で計ったようにきっちり割りきれるように弾むのではない。電卓で計算したら小数点以下2~3桁ぐらいの半端が出るような弾み方である。さらに、曲調によって弾み方の比率が変わる。

こんな理屈はどうでもいいが、、、 私は、このピアノトリオのライブで、初めてスイングの気持ちよさを体験した。 やはり、畳の上ではなく、椅子なのだ。 極論ではあるが。。。

 

Lullaby of Birdland - Andrea Motis Joan Chamorro Quintet & Scott Hamilton  

https://www.youtube.com/watch?v=N7ta17oBv2w

 

また私は、この日、ドラムに強く憧れることになった。

まずは、ハイハットシンバルである。 ドラマーは、二拍目と四拍目のところでペダルを踏む。そうすると、上の合わせシンバルが閉じて、「チャッ」っという音が出る。

バックビートである。 このバックビートを、ドラマーは踏み続けるのだ。

このバックビートも気持ちよかったが、、、 それよりも、ハイハットシンバルのスタンドの構造である。

下のペダルを踏むと、上のシンバルが閉じて音が出る。 操作したところとは違うところが動作する。これは、メカの基本である。そう、ハイハットはメカなのだ。

もしも、この時、グランドピアノの中身が透けて見えていたら、ピアノに憧れたかもしれないが、、、
この時、ピアノは真っ黒で中が見えなかった。

さらに、ドラマーはハイハットでバックビートを強調しながら、右手のスティックは、シンバルレガートをきざんでいる。 シンバルレガートは、しっかりとフォービートをキープしながら、適度に弾んでスイングしているのだ。

さらに、さらに、、、 左のスティックはスネアでスイングしながら、時折、右足でバスドラ、右手のスティックでクラッシュシンバルを同時に、アクセントにしている。

規則性を持った上でバラバラに動く。 これもメカの特徴の一つである。 ドラマーはメカなのだ。

私は、ドラマーに憧れた。

しかし、私なんかにメカのような動きが出来るわけがないという卑屈な思いが支配していたし、、、 そもそも、私のこづかいを一年分貯めても、シンバルスタンドの一本も買えないのだ。

憧れは憧れ。夢のまた夢であった。


その頃、ピッコロは、、、

ピアノ歴5年、ピッコロ歴4年で、、、 祖父のLPコレクションを聴き続けて3年である。
さらに、エリート祖父のレッスンを受けていた。

私の先生は、ジャズのLPレコードだけである。
楽器は、、、 学校で、リコーダーと木琴をテキトーにやっただけである。

ピッコロと私は、スポーツカーと自転車以上の差がついていた。

まあ、この際、ピッコロはどうでもいいが、、、

このライブで、強烈に印象に残ったのは、シンバルの音の美しさであった。

いま考えると、、、 あのドラマーが、ベニヤ板でシンバルレガートを刻んでいたら、ベニヤ板の音を好きになっていたと思う。

演奏する者の技術や感性と、楽器の音の関係は、そういうものだと思う。

もうひとつ印象に残ったのは、、、 ノリの良いサウンドである。

ノリが良いサウンドは、自然に踊りたくなる。

私は、かかとでフォービートを踏みながら、上半身がわずかに踊っていた。

このライブでは、初めから最後までノリノリだったことが、印象的であった。


ここで、また、、、 反対の例が頭に浮かんできた。

踊りながら演奏しているから、サウンドのノリが良くなっている、、、 という強者達がいる。

京都橘である。


次回も、自分の事を書く予定である。

 

2015年11月15日京都橘高校 DAIONセンチュリーパレード(1/2) Kyoto Tachibana S.H.S  

https://www.youtube.com/watch?v=zIDlsHYlMH8

www.youtube.com

2015年11月15日京都橘高校 DAIONセンチュリーパレード(2/2) Kyoto Tachibana S.H.S  

https://www.youtube.com/watch?v=XHrjL2UFpfU

Fly Me To The Moon -- Beegie Adair Trio

https://www.youtube.com/watch?v=HsJavr4AI5M