吹奏楽 マーチング ダンシング

パフォーマンスで、感動を共有できることは、、、幸せだ

連載 吹奏楽とロック 7

 

 

これからスタートするバンドでは、ギターを弾くことになったが、、、

そうであるならば、、、 今使っている、練習用のギターアンプでは使い物にならない。 そして、管楽器のサックスを頼んだのはいいが、ロックでは、、、サックスといえども、マイクとボーカルアンプが必要になる。

ドラムはいいとしても、ベースは、、、秀才は、どんなベースギターやベースアンプを持っているのだろう。

ロックバンドは、機材が揃っていなければ、全体での練習が出来ないのだ。

秀才に、聞いてみたら、、、フェンダーのベースと、マーシャルの100wのベースアンプ! プロレベルだ。秀才は完璧である。

あと必要なものは、楽器用マイク・マイクスタンド・ボーカルアンプ・ギターアンプである。

『サロン』のみんなに、機材の確保をお願いした。回りの人達に聞いてもらって、、、 第一に、無償でもらえないか? 第二に、無償で貸してもらえないか? 第三に、格安で、譲ってもらえないか?

みんな、一斉に動いてくれた。我がバンドは、、、一度も、練習をしたことすらないのに、強力なファンクラブが出来上がっていたのだ。

しかし、結果は、、、 全滅であった。。。機材は無償で『サロン』に大量に集まったが、、、 バンドでの使用に耐えられるものは、一つもなかった。

今と違って、ネットで中古の機材が、簡単に手に入る時代ではなかった。機材の質も低く、そもそも、絶対数が圧倒的に少なかったのだ。

仕方がないから、、、ギターアンプは、新品で購入することにした。一流品ではないが、ライブでの使用に耐えられるレベルで、グヤトーンの50wのアンプである。

この事によって、、、私の、ドラムの購入は3ヶ月先に延期となる。 しかし、このような本格的なギターアンプを所有していることは、今後の、バンド活動にとって、、、有益なアイテムになるもので、無駄ではないと判断した。

ボーカルアンプは、、、時間をかけて探していくことにした。ボーカルの代理を、サックスにしてもらっている間は、、、ドラムに控え目に叩いてもらえば、、、ギターとベースはボリュームを下げて、全体のバランスをとることはできる。

あとは、大きな音でも練習ができる場所の確保である。当初は、この事が、最大の苦労の種になるのではないかと予想していたのであるが、あっさりと確保された。

秀才の家の、となりの工場に空き棟があって、、、最低でも、半年以上は使う予定がないそうだ。大型のプレス機を使っていた建物なので、防音対策も出来ている。秀才の親父さんが、電気の使用もふくめて、工場に話をしてくれたのだ。

体育館より、天井は低いが、広さは同じくらいある。 私は、早速、買ったばかりの、ギターアンプを工場に持ち込んで鳴らしてみた。。。レベルは全開だ。 デカイ音は気持ちいい!  弾いていると快感である。 いっしょに、ついてきた『サロン』のファンクラブも、一緒に絶叫している。まるで、サイレンの音につられて遠吠えをする犬達みたいだ。

私は、この時、、、 ギターって手軽でいいな、と思った。。。 ドラムだったら、自宅での練習でさえ、大きな音がさまざまな問題を引き起こす。だから、工夫が必要であり、面倒な苦労が伴う。 ギターだったら、ボリューム調整も出来るしアンプを使わないという練習も出来る。

ドラムはアイテム数が多いので、運搬もセッティングも手間がかかる。太鼓を鳴らすための、チューニングも一筋縄ではいかない。ドラムという楽器は、練習環境を確保するだけで、大変なエネルギーを消費する。

だから、このままギターに転向してしまおうかと思ったりもした。。。

  

 Money - Pink Floyd + Lyrics

https://www.youtube.com/watch?v=JkhX5W7JoWI

  

バンドの方針としては、、、 最初に集まって、音を出してから、具体的な方向と、練習方針を決めるということになった。

そして、初日の日曜日、、、 私は、約束の30分前に練習場である、工場に入った。練習場には、すでに『ファンクラブ』が6人来ていた。6人のなかの2人は、見たことのない奴だった。

私は、スケール練習でウォーミングアップをしながら、ほかのメンバーを待つことにした。ウォーミングアップをしている間にも、『ファンクラブ』は増えて、10人になっている。

ドラムの運搬の手伝いに5人行っているから、、、今日の『ファンクラブ』は、総動員になりそうだ。我がバンドは、何もしないうちに、期待だけはされてしまっているようだ。

吹部の彼が、テナーサックスを持って練習場に現れた。 彼は、すぐにケースを開けて、ウォーミングアップを始めた。

約束の時間になっても、秀才が来ないので、『ファンクラブ』の二人が秀才の家に様子を見に行ったが、、、 しばらくすると、二人が血相を変えて、走って帰ってきた。

「秀才は、体調不良で参加できないっ!」

『ファンクラブ』は、どよめいた。。。みんな、今日はどうなってしまうのだと、騒ぎ始めた。

私とサックスの彼は、病欠なら仕方がないと言いながら、ウォーミングアップを続けていた。

私達の、落ち着いた様子を見ていた『ファンクラブ』も、次第に落ち着いてきたのだが。。。

そこに、ゾロゾロと『ドラム運搬組』が入ってきた。 しかし、彼らはドラムを持っていない!

そして、『運搬組』の後ろから、ドラムの本人が申し訳なさそうに入ってきた。

「どうして、ドラム、持ってこないんだ?」
また、『ファンクラブ』が騒ぎ始めた。

『運搬組』が、「ちゃんと説明して、謝れよ。」

しかし、本人は、下を向いているだけで、言葉が出てこない。 よく見ると、彼の左の頬は、はれている。。。

彼が、何も言わないので『運搬組』が、、、

「ドラムは、最初から壊れていて使えない。直して使えるようにしたというのは嘘! だから、練習をしたことがない。こいつは、ドラム出来ないくせに、出来ると嘘をついていた。」

「ふざけやがって!」

「ぶっ殺せ!!」

『ファンクラブ』の中の三人が、ドラム?の彼に、駆け寄った。

あわてて、『運搬組』が、「まてまて、、、 俺が代表して、ぶん殴っておいたから、誰も手を出すな。。。」

あやうく、彼は、袋叩きになるところだった。みんな、裏切られた感を強くしてしまったのだろう。

この時、、、ドラムの彼に対して、私とサックスは苦笑いをしただけだった。吹奏楽族とロック族は、あらゆる場面で違う反応をする。

吹奏楽では、、、 いつも、自分の技術レベルを見つめて、自分の弱さを見つめて、、、毎日、地道に戦い続ける。 吹奏楽では、いくら自分を騙しても、すぐに、自分の音がさらされるのだ。

私は、、、 中学一年のころに、吹奏楽で惨めな自分を見つめながら、自分と戦い続けた経験がある。とても、彼に腹をたてる心境にはならない。

そして、、、何が起きても、平常心で前に向かって進む。これも吹奏楽で身につけた習慣である。吹奏楽では、後ろを振り向いて、時間とエネルギーを無駄にしている余裕はないのだ。

彼の場合、、、ドラムが出来たらいいだろうなぁ~という願望と、自分はドラムが出来るのだという妄想の狭間で、まわりの人達を振り回してしまった。

今思えば、、、この時代は、楽器を演奏できる人の絶対数が少なすぎたのだ。 だから、どうしても、ニセモノに当たる確率が高くなる。

私は、、、「こいつは、、、ドラムが出来なくて、使えるドラムを持ってない。。 。 ということは、、、 また、みんなにギターかドラムを探してもらわなければならないな。。。」

しかし、私は、、、きっと、当分、見つからないだろうと思った。

すると、、、 ドラムの彼が、、、「責任もって、俺、ドラム頼んでくる。。。」

『ファンクラブ』は一斉に、、、信用できないとか、お前なんか消えろとかのヤジを飛ばした。

私が、「当てがあるのか?」と聞くと。。。

「一年先輩で、社会人で、ドラムがうまい人がいる。」

「でも、ほかのバンドやってるんじゃないのか?」

「バンドやってないから大丈夫だと思う。」

願ってもないことだと思った。

「その人は、バンドの経験は有るのか? ロックでなくても、ジャズとか吹奏楽とか。。。」

「独学って言ってた。バンドの経験はないと思う。」

バンドの経験がないというのは、、、大きなペナルティーである。何百回という、アンサンブル経験のなかで、積み上げていかなければならない事、、、やったことのない人には、想像もつかないレベルで、とても大切なノウハウが無数に存在しているのだ。

しかし、この時は、、、とにかく、ロックバンドの形を早くつくって、早く経験したいという気持ちが強かった。大げさに言えば、、、『溺れるもの、藁をもつかむ』という心理状態であったが、、、本当に、『藁を掴む』ことになるとは、、、この時は、予想していなかった。

 

 Eagles - Hotel California (Lyrics)   

https://www.youtube.com/watch?v=EqPtz5qN7HM

  

この日の練習は、、、吹奏楽族の二人になってしまったが、、、この機会を無駄にしたくはない。

サックスの彼に、『ブルースコード進行』と『ブルーノート ペンタトニック スケール』の説明をした。

そして、B♭keyの『ブルース進行』で、ロックンロールのベースラインを吹いてもらった。

B♭ B♭ B♭ B♭   E♭ E♭ B♭ B♭   F  E♭ B♭ F

 

B♭ → ド    ド     ミ  ミ  ソ  ソ  ラ  ソ
E♭ → ファファ ラ  ラ  ド  ド  レ  ド
F     → ソ    ソ     シ  シ  レ  レ  ミ  レ

 

そして、私は低音弦で一度と五度のコードで、、、

B♭ →  ド     ソ
E♭ →  ファ ド
F     →  ソ     レ

 

ドラムがないので、、、 ギターはドラム的に、リズミカルに。。。 ドラムのフィルインみたいにアドリブを入れながら。。。

やっと、曲がりなりにもアンサンブルが出来た。アンサンブルは、快感だ。サックスの彼もしっかりと、テンポをキープしている。。。

『ファンクラブ』も、、、『やっと』だったのだろう。異様に盛り上がっている。

次は、、、今のパターンを12小節、ギターのアドリブを12小節、そして、サックスが覚えたばかりの『ブルーノートスケール』で、アドリブを12小節。
これを、繰り返す。

三回まわしたところで終わりにしたが、、、
『ファンクラブ』が、大騒ぎ。

「スゲー、二人でスゲー!」

「やったー!」

リズムを変えて、トリプレットで、また、三回。

「ジャズか?これ。。。」

「ばーか。。。アドリブだよ、これは。。。」

「ロックのアドリブか?」

「知らねーよ、そんなこたー。」

『ファンクラブ』は興奮状態だったが、、、サックスの彼も興奮していた。

吹奏楽では、こんなウケかたをすることはない。それも、あったが、、、 彼にしてみると、即興演奏を出来たことが嬉しかったのだ。

吹奏楽では、アドリブで苦労する。楽譜に書いてないと、アドリブを吹けないという冗談を地でいっているのが吹奏楽なのだ。

第一日目は、、、思うようにいかない面は多かったが、楽しくやれたから、大成功ということにした。

来週の日曜日は、秀才のベースが入る。一気に気持ち良くなりそうだ。 ドラムの人も来てくれるかもしれない。。。

 

 Black Sabbath - "Paranoid" Belgium 1970   

https://www.youtube.com/watch?v=0qanF-91aJo

 

秀才は、月曜も火曜も登校しなかった。

さすがに心配になって、学校が終わると、すぐに、秀才の家を訪ねた。玄関で声をかけると、秀才本人が現れた。そして、部屋に案内された。

考えてみると、秀才の家に上がったのは初めてだった。 私は、、、いままで、偶然、上がる機会がなかったのだと思っていた。

秀才の部屋に通されると、、、突き当たりの壁全体が書棚になっていて、音楽関係の、書籍や雑誌がびっしりと並んでいる。

その書棚の中段に、オーディオのスピーカーがはめ込んである。窓とは反対側の壁には、アップライトピアノ・ベースアンプ・ベースギター・フォークギターが並んでいる。

秀才の部屋は、音楽一色であった。

秀才は、病気というよりも、思いつめているように見えた。。。

秀才は、「お前には、この部屋を見られたくなかった。俺が、いつも言っていることが、雑誌なんかの受け売りだと思われるのが嫌だった。。。本当に、受け売りだから。。。」

私が、「受け売りが、普通なんじゃないの。。。」と言うと、、、それを、無視して、、、

「ベースやってることも知られたくなかったから、お前を、俺の部屋に近づけないようにしていた。」

だんだん、重い話になってきて、放っておくと、とんでもない事になりそうだったので、私は話をそらした。

「その話は、また、するとして、、、体の具合はどうなんだ。」

「病気じゃない。うそなんだ。。。俺、、、いつも、偉そうな事ばかり言っていて、、、でも、ベース、、、ちゃんと弾けないんだ。。。 だから、みじめで、はずかしくて、、、おまえ達の前に出られなくて、、、本当に、すまないと思ってる。」

何だって!!

ブルータス、、、お前もか。。。

 

One Of These Days (吹けよ風、呼べよ嵐) / PINK FLOYD    

https://www.youtube.com/watch?v=mzG6Gsi92ww