吹奏楽 マーチング ダンシング

パフォーマンスで、感動を共有できることは、、、幸せだ

連載 吹奏楽とロック 9

 

 

知り合いから、また、メールがきた。

「ドラムの技術的なことは、案外知られていないので、吹部の少女達にもう少し教えてあげた方がいいよ。」

たしかに私も、日頃、気になっていることなので、今回の、前半は、そういう点を強調する方向でいきたいと思う。

 

私は、ギターのウォーミングアップをしていたが、しながらも、先輩のドラムが気になってしかたがなかった。

ドラムというよりは、ドラミングの問題点が目について、自分のウォーミングアップに集中することが出来なくなってしまった。先輩のドラミングが、、修正するのに、基礎からやり直さなければならないような致命的なものだったからだ。

普通は、スティックを親指と人差し指でつかんで、そこを支点に、中指・薬指・小指でスティックを動かす。だから、手首のスナップと腕を少し上下させるだけで、、、大音量で演奏することもできるのだ。

ところが、、、先輩は五本の指で、スティックを握りしめている。。。そして、手首を支点に、手首のスナップだけで叩いているのだ。だから、大きな音を出すときには、腕を大きく振り上げなければならない。

ようするに、一発なら大きな音を出せるが、、、音数が多くなれば、腕を振り上げることが出来なくなるので、小さな音しか出せなくなってしまうということだ。

また、バスドラのキックも間違っていた。

キックペダル(ドラムペダル)のバネを最低に調節して、ペダルの先端付近を踏んでいる。このやり方だとビーター(マレット)をヘッドに押し付けて止めるということになる。

この奏法は、、、バスドラはごく小さな音でいいという場合に、少ない練習量で習得できるという、特別な方法なのだ。

ロックや吹奏楽では、普通、大きな音でバスドラを鳴らさなければならないので、この奏法は使えない。このやり方で、大きな音を出そうものなら、あっという間に、数千円のバスドラヘッドが大きくへこんで破損しまう。

破損させないように、大きな音を出すには、、、ビーターを跳ね返さなければならない。そのためには、ペダルのバネを中程度に設定して、ペダルの真ん中辺りを踏む。そうすれば、ビーターが跳ね返りやすいので、ヘッドを壊すことはなくなる。

この『跳ね返す』奏法で、特に、でかい音を出すには、、ペダルを足で、ほんの少し踏み込んで戻す。すると、バネの力でビーターがさがるので、さがった、その瞬間にペダルを踏み込むと大きな音を出すことができる。

この、一連の動作が無意識で出来るようになるには、長期間の練習が必要だ。やってみれば分かるが、体幹能力も要求されるし、正確なキックが出来るようになるには、かなりの練習量が必要になる。

私も、靴をはいていると、微妙にブレるので、靴を脱いでキックしている。

先輩の奏法は、どれも、小さな音しか出せないものだった。

しかし、、、うるさい。。。

シンバルの音がデカイのだ。。。太鼓もシンバルも、同じ強さで叩いてしまうから、シンバルがうるさくなってしまうのだ。

普通、ドラムの音は、低い音ほどバンドサウンドから抜け出しにくい。 だから、ドラマーは、低い音の太鼓ほど強くアタックする。高い音のシンバルは、するどく弱く叩くのが普通だ。

秀才が、ウォーミングアップを始めた。そして、小さめの音でベースを弾き始めた。

すると、ドラムの低音が、まったく聞こえなくなってしまった。タムを叩いた時に、アタック音が小さくパタパタと聞こえる。それ以外は、スネアのスナッピー(針金みたいのが、何本かあるやつ)がボトム側のヘッドを叩く音と、シンバルの音だけだ。

私のギターやサックスの音が出始めると、タムのパタパタも聞こえない。先輩は、単なるシンバルパートになってしまった。

先輩本人も、、、なんじゃ、これは。。。と驚いたみたいだ。 バンド経験がないというのは、こういう事なのだ。一人で練習しているときには、テンションの低いヘッドの、低いうなりを聞いていて、それでいいと思っていたのだろう。

先輩は慌てて、タムのチューニングを変え始めた。しかし、まったく良くはならない。しばらく、あれこれ、調整していたが、先輩は、あきらめてしまったみたいだ。

無理もない。チューニングを知らなければ、どうにもならない。先輩のドラムは、タムもバスドラもまったく聞こえない。タムもバスドラも、ボトム側のヘッドが鳴っていないのだ。

ドラムは、、、トップ側のヘッドを叩くと、太鼓の中の空気が衝撃波となって、ボトム側のヘッドを叩く、、、そして、ボトム側のヘッドが鳴る。それが、胴鳴りなのだ。

だから、特に胴の長いタム、、、超深胴のタムを叩いた場合、、、トップ側のアタック音とボトム側の胴鳴りが、時間差でずれるので、『タン』とか『ドン』ではなく『タウォン』とか『ドウォン』みたいに鳴る。


私は、見るに見かねて、先輩に、、、

吹奏楽部で打楽器をやってたことがあるんですけど、タムのチューニングを直しましょうか?」

すると、、、

「ふざけんなっ! ロックだぞ。 違うだろ。 何で、ブラバンなんかにやってもらわなきゃならね~んだよ。」

タイミングが悪かった。。。うまくいかなくて、先輩は、想像以上にイラツイていたのだ。
そして、後輩達に、なめられたくないという気持ちも強いんだろう。

それにしても、ロックと吹奏楽で、チューニングが違うと思い込んでいるところが、、、まったく、チューニングを理解していないということであるが。

さらに。。。

「ロックだぞ! ロックじゃタムが聞こえないのが普通だろう。」

もう、言っていることも、ハチャメチャになってきた。。。

まったく、、、ロック族の、吹奏楽の評価は最低だ。ロック族にとって、、、吹奏楽は、感動もなければ、楽しくも何ともないのだ。。。だから、吹部で打楽器やってた奴なんて、、、相手にする気にもならないのだろう。

しかし、私が先輩より一才でも年上だったら、この後の展開が全然、違うものになっていたかもしれない。そう考えると残念ではある。。。

 

 Steve Ray Vaughan-Scuttle Buttin

https://www.youtube.com/watch?v=OoBJXwdn2Jo

  

この日も、、、ファンクラブが20名ほど来ていた。全員が高校生なので、、、先輩は、、、なおさら、弱いところは見せられないと思ってしまったのかもしれない。だが、先輩の『ツッパリ』は、裏目に出ているようだ。

ファンクラブは、明らかに、先輩に対して否定的な感情をいだいている。露骨に、雰囲気が悪いのだ。

ファンクラブの彼らも、吹奏楽を軽く考えてはいるが、、、私とサックスのように、ロック好きの吹部は、けっこうイケてると思い始めている。

彼らは、、、私とサックス、そして、秀才のファンクラブなのだ。。。先輩の『ツッパリ』で、ファンクラブは、先輩のファンになる前にケチがついてしまったようだ。


いずれにしても、練習を始めなければと、、、12小節のブルースコード進行を、先輩に説明してアンサンブルをスタートしてみた。

12小節を3回、まわした辺りで、問題点がはっきり浮かび上がってきた。

ビート感がない。 それどころか、ふらついている! ドラムのフィルインの時にテンポが変わってしまう。。。 から、ベースがタイミングをつかめずに、アタマの音を出せなくなってしまった。 さらに、、、ドラムが、リズムパターンを少し変えただけでテンポまで変わってしまう。。。

ノリが悪すぎて、ファンクラブもしらけている。。

しかし、先輩はドヤ顔である。一言や二言は、ほめ言葉があっても、当然、といった顔をしている。

テンポやノリが悪い場合の、最大の問題点は、、、本人に、『自分は、テンポやノリがだめだ』という自覚がないことである。したがって、このことを指摘されても改善できないということもあるが、、、その場合、その人は、、、いらない、という事になる。

先輩の脳の中には、、、ビートの流れがない。ただ、覚えた手順どおりにドラムを叩いているだけで、手順を間違えなかったから、それで完璧だと思っているようだ。

このような場合は、、、演奏を録音して、本人に聞いてもらえば、極端な部分だけでも分かってもらえる。 しかし、この時の我々は、録音機材もなければ、その知恵も無かった。

「基礎的な練習をしたいので、、、四分音符だけで、ドン タン ドン タン て やってもらえますか。」

「かまわねーよ。。。」

ほめ言葉ではなかったからか、不満だったみたいだ。。。

四分音符だけでやっても、何となく、ふらついた感じだが、、、みんなが、やりやすくなった。しかし、12小節の二まわし目から、先輩は、、、4小節毎にフィルインを入れ始めた。

また、フィルインのテンポが変で、、、モタッテルとかツッコンデルというレベルではない。また、アタマに、ベースが入れなくなった。

すると、突然、先輩が演奏を止めて。。。

「どうして、ベースはアタマの音を出さねーんだよ。一番、大事なところじゃねーのか?」

秀才は、『原因は、お前だろ』と言いたいんだろうが、何も言わなかった。。。

私が、「フィルインのテンポが、変化してしまうので、次のアタマのタイミングが分からないんですよ。次は、フィルイン無しでお願いします。」

先輩にしてみれば、自分が乱れている自覚はないのだ。。。私が、友達である秀才の味方をして、問題をドラムのせいにしたと思い込んだのかもしれない。

「ふざけんな! お前達が、ドラムに合わせるんだよな?普通は、そうだろう?」

「冷静に聞いてもらいたいんですが、、、フィルインの時に、テンポが乱れるので、合わせられないんです。だから、フィルイン無しで、単純に叩いてもらいたいんです。」

この時、先輩は自分の方に問題があるのかもしれないと気づいた。そうなると、今までのツッパリは大恥である。ここにいる高校生達に、なめられるどころか、バカにされてしまうかもしれない。

ここで、先輩のヤワな心は限界を超えてしまったようだ。。。

「ロックだぞ。細かいことを言ってないで、勢いでやればいいんだよ。」

たしかに、ロックに限らず『勢い』は大切だ。しかし、その『勢い』を殺しているのが先輩なのだ。。

「でも、単純にやってもらわないと、また、ベースが入れません。」

「お前。。。なに、仕切ってるんだよ。俺は、お前をリーダーだと認めたおぼえはねーぞ。」

もう、話にならない。どうしていいか、分からなくなった。すると。。。

「お前、俺をなめてるのか。俺と勝負してみるか?」

もう、この人はだめだ。。。 あっ!ヤバい!ファンクラブの二人が立ち上がった。この二人は、手が早い連中だ。ここで、誰か怪我でもして問題になれば、この練習場を失うかもしれない。

私がやるしかない。。。 じつは、ケンカは私の特技なのだ。しかし、このケンカは難しい。後に引きずって、問題を残さないように決着をつけなければならない。こういう時は、半端はダメだ!

私は。。。

「勝負したいなら、かかってこいッ!この野郎!」

すると、先輩は、素早く後ろにさがった!

勢いをつけて、大きな体で体当りをするのかもしれない。そうだとすれば、ケンカ慣れをしている奴ではない。あたる寸前に、横によけて腹をねらえば、怪我をさせずに戦意を奪えるだろう。

しかし、先輩は壁までさがっていく。。。そして、ドアを開けて、、、ちゃんと閉めて出ていった。

なんだ、、、逃げたのか。。。

ファンクラブは、みんな、目が点になっている。

すると、ドアが開いた!

「ふざけんな!バカ野郎ッ~~!!」

そして、また、ドアが閉まった。。。先輩の、最後の遠吠えだった。。。

ファンクラブは、みんなで大笑いである。

しかし、こんなことで、、、何事もなく済んで良かった。練習場を無事、使い続けられる。。。

サックスの彼が、「ドラムを置いてっちゃったね。」

ファンクラブは、「外に放り出せ!」「川に捨てろ!」。みんなで勝手なことを言っている。

すると、秀才が「誰もいなくなった頃に、取りに来るんじゃねーか。。。」

 

Creedence Clearwater Revival: Long As I Can See The Light 

https://www.youtube.com/watch?v=SFP5afPweVI

 

私たちは、、、先輩のドラムを置いたまま、練習を再開した。

グダグダのドラムが居なくなったら、快適になった。障害が無くなったら、ベースが止まることはなくなった。そして、ファンクラブも目が輝いてきた。

ベースの音は気持ちがいい。秀才は、音を外すことがないし、楽器のグレードも高いものであるから、本当に気持ち良くなってくる。

この日は、、、リズムやテンポを変えて、、、疲れてしまって、弦をまともに押さえていられなくなるまで練習を続けた。

そして次の日曜は、『サンシャイン・ラブ』をやるという提案をした。

秀才とサックスは、来週までには間に合わないと言うので、、、「出来るように、音数を減らしてしまえ。それも、アレンジの一種だよ。」

サックスの彼は、「そんなことで、大丈夫なんだ。。。」

吹部では、基本的に、楽譜どおりに演奏する。たしかに吹部には、こんなイーカゲンなやり方はない。サックスの固定観念では、想像もつかなかったのだろう。

吹奏楽では、楽譜どおりに出来るように、、、自身の技術力を鍛え上げる。そのために、必死に練習する。本番までに間に合わなければ、「お前だけ、そこを吹くな」。。。

一年生なら、それでもいいが、、、二年生にもなると、それは、屈辱である。

だから、吹奏楽を2年やれば、2年分の技術が、みっちりと身に付くのだ。 しかし、アレンジやアドリブなどの、、、創作的な能力は身に付かない。

マチュアのロックは、自分達が技術的に出来る範囲で形にしてしまう。普通は、指導者はいないので、自分達でこれを何とかする。このイイカゲン・テキトーが、、、創作能力を鍛えてくれる。

練習の度に、あれこれ試してみる。その中から気に入ったものを、自分で採用する。 言い方を変えると、、、ロック族は、アレンジとアドリブの毎日なのだ。

『サンシャイン・ラブ』は、24小節の、ほぼ、ブルースコード進行なので、リフとボーカルをコピーして、、、それを、やり易いように単純化すれば、、、簡単に演奏できてしまう。

ただ、、、ドラムがいないので、ビートの芯が抜けてしまう。そこでベースが、ルート音(和音の根音)だけで四分音符だけのスタッカート(歯切れよく)をやる。今のうちは、それでやるということにした。

そして、24小節の一回しだけ、ベースがリフを弾いて、ギターがドラム的にやり、サックスがソロをやる。

ロックのスタンダードである『サンシャイン・ラブ』を知っている秀才と私は、簡単に演奏してみた。 ファンクラブの、この歌を覚えている奴らが、演奏に合わせていっしょに歌っている。

サックスの彼は、「こうやってアレンジするのか。。。俺は、みんなが歌っているところを吹けばいいんだね。でも、楽譜なしでミーティングなんて、俺、初めてだよ。。。」

彼は、すごく嬉しそうだ。しかし、、、

「でも、24小節のソロか。。。一週間じゃ無理だな。。。」

不安そうな表情に変わった。

私は、「カッコいいフレーズを思いついたら、2小節とか4小節ずつ、五線紙にメモしておけばいい。そして、それを、、、順番を並び替えながらやれば、一応はソロになる。」

「ハハハ、そんなことで、ハハハ、いいのかよ。」

「どうせ、当分は、人を感動させられるようなソロは思いつかないだろう。それまでは、練習だよ。」

「でも、24小節。。。一週間。。。無理だよ。」

「足りないところは、スケール練習を吹いてればいいよ。」

「あっ、そうか。。。練習だもんな。。。」

サックスは、、、ロックの練習法を理解し始めたようだ。

『ロックの練習法』。。。

実は、私にとっては、『ロック』というわけではなかった。 これは、中学の吹部のパーカス・アンサンブルのやり方の応用だったのだ。

文化祭では、、、各パートが、必ず、アンサンブルをやったのだが、、、毎年、パーカッションパートは、、、夏休みに、パーカスのみんなでオリジナルを創った。

私が二年生の時は、和太鼓を使ったので、、、和太鼓に詳しいパートリーダーに基本の楽譜を書いてもらって、、、後は、みんなが思いついたリズムやアイデアを持ち寄ってつくったのだが、、、阿波おどり風のリズムで、浴衣姿の女子たちに踊ってもらったのは大ウケだった。

最後の、三年生の時は、、、私は、指揮者だったが、パーカスアンサンブルに入れてもらってヤレタことは、良い想い出になっている。

本当に、創作は楽しい。技術的には、すでに出来ている事しかやらないから、『表現づくり』にエネルギーを集中できる。だから、良いものが出来るし、やっていて、本当に楽しいのだ。


しかし、この時、、、私は、吹奏楽族のサックスのほうではなく、秀才の問題点を考えていた。

ふらふらビートのドラムがいなくなった事によって、秀才のベースの問題点が浮かび上がってきたのだ。これは、本人が気がついていないので、私がアドバイスをしなければならない。

吹奏楽族のサックスなら、事実をそのまま指摘すれば済む。しかし、ロック族は、精神的にデリケートなのだ。こういう事になれていないということだが、本当に面倒くさい。しかし、やるしかない。

秀才なら、ドラムの先輩みたいなことにはならないだろう。数日、考えてから慎重に対応することにした。

 

つづく。。。

 

Sunshine Of Your Love

https://www.youtube.com/watch?v=f3y8jf01UY8