吹奏楽 マーチング ダンシング

パフォーマンスで、感動を共有できることは、、、幸せだ

連載 吹奏楽とロック 8

 

  

秀才は『ベースを、ちゃんと弾けない』と言ったが、、、私としては、腑に落ちない不自然なものを感じた。

それは、『ファンクラブ』の評価、、、

「秀才が、ベース、スゴいの知らなかったのか?」

ロック好きの奴らが『スゴい』と評価する場合、彼が、『スゴい』面をどこかに持っているという事は間違いない。

そして、練習する場所を、、、 親父さんに頼んで、彼の家の隣の工場に話をつけて、確保してくれた。 彼は、バンドをやりたい気持ちはあるのだ。

私は秀才に、、、「出来たばかりのバンドは、ヨチヨチ歩きなので、、、当分の間、ベースは基礎的なことを弾いてくれればいいんだよ。」

そして私は、、、机の上にあるメモ用紙に五本の線を引いて、簡単な五線紙をつくった。そこに、コードの構成音だけのベースラインを書き込んだ。

「これを弾いてみてくれ。。。」

彼は素直に、私に従った。 私は、手でテーブルを叩いて、エイトビートを。。。

ビート感が、ちょっと、ゆるい感じはしたが、彼はメモ用紙の楽譜を、初見で弾くことが出来た。

「今のところ、それだけ弾ければ充分だけど、、出来たら、コードの境目をなめらかなベースラインに変えてみて。。。」

秀才は、きれいなベースラインに変えた。

私のレベルでは、完璧に聴こえる。。。いったい、何が、『ちゃんと弾けない』んだろう。。。

私は、『テーブル・ドラム』を、スローなトリプレットにしてみたが、『ちゃんと』ついてくる。次は、早いシャッフルにしたが、問題ない。

私は、思い出した。。。

中学の吹部で、ずば抜けた表現力を持ったピッコロがいた。しかし彼女は、いつも自分を低く評価していて、時には、自信がないように見えることもあった。

このような事は、向上心が強すぎる事によって起きるのだと思う。
理想が高く、自己批判が強すぎる。だから、自分を、低く評価しすぎてしまうのだ。

それで、秀才は身動きがとれなくなってしまったのだろう。特に彼は、目の前に、いつも、世界のトップミュージシャン達がいるのだ。

私のように、いつも、目の前の自分の実力をにらんで、1センチでも1ミリでも進めていこうとするタイプとは違うのだ。

性格。。。 感性の違い。。。

バンドをやっていく上で、このことは、常に付きまとっていくのだろう。。。

しかし、高校生がロックバンドを始めようという時に、『世界のトップ』の理想でつまずいているようでは、一歩も前に進めない。

私は秀才に、「これは、自分一人の考えで、、、バンドの方針を、みんなで決める時に話そうと思っていたんだけど、、、ロックバンドに慣れるための練習バンドという位置付けがいいんじゃないかと思ってる。」

彼は、この日、初めて私の顔を見ながら話した。

「俺、、もう、相手にされないと思ってた。。。」

彼は、気を取り直したように、、、

「練習バンド! そうしてもらえば、俺にも出来ると思う。」

彼は、いったい、どんなバンドを予想して、くじけてしまったのだろう。。。


私は、バイトの時間が近づいていたので、急いで家に向かった。

すると、、、家の前に、ドラムの彼が待っていた。

「先輩が、ドラム、やってくれるって。 土曜日の午後に話をしたいって言ってる。いいかな?」

「ありがとう。よかったよ。土曜日、メンバーを集めるから、家に来てくれるように伝えておいてくれ。」

  

 Deep Purple - Smoke On The Water 1972 (High Quality)   

https://www.youtube.com/watch?v=ikGyZh0VbPQ

 

当時の土曜日は、、、学校はもちろん、官庁ほか世の中全体、半日が多かった。ドラムの先輩から、午後3時という連絡をもらったので、メンバーは3時前に『サロン』に集まってきた。

サックスの彼に、『ロックバンドに慣れるための練習バンド』の話をして、賛同してもらった。

ドラムの先輩を待つ間、三人で雑談をしていたが、秀才は、いつの間にか元気になっていた。きっと、彼のなかで、何か、ふっきれたのだろう。そして、サックスと秀才は、相性がいいみたいだった。

4時近くになって、ドラム?の彼と、ドラムの先輩が現れた。

先輩は、体も声も大きく、、、

「こいつに、土下座して頼まれちゃったからよぉ、さすがの俺も断れなくて来ちまったよ。」

態度も大きい、第一声だった。

私達が土下座をして頼んだわけではないが、、、先輩は、そんな気になってしまっているようだ。
まぁ、相手は、年下の高校生達であるから、気楽に話しているのだろうが。。。

しかし、この後、1時間近くにわたって、先輩の『ロック講座』を聞かされるはめになった。

テーマは、『ロックミュージシャンの暴力性について』とでも言ったらいいような内容だった。

しゃべってもらっていれば、、、先輩がどんな人柄か見えてくるかもしれないと思って、調子を合わせて聞いていたが。。。

話のほとんどは、誰々が誰々を殴ったとか、暴れたとか、壊したとか言う話で、、、知らない人が聞いていたら、ロックミュージシャンは、皆、チンピラなのかと勘違いしそうな話ばかりだ。

音楽の道を極めるためには、長年、辛抱強く地道にレッスンを継続することが必須で、、、虚像のためのパフォーマンスで、フリをすることはあるだろうが、、、本当に、頭に来てぶち壊してしまうような者は、音楽的にも半端なことしか出来ない奴だと思う。

当時のロックミュージシャンは、若者が多いので、時には、音楽的な方向性が衝突して、怒鳴り合うような事はあったかもしれないが。。。

先輩の話のなかには、、、ツェッペリンのドラマーのジョン・ボーナムは、パワーが強すぎて、、、ライブが終わると、シンバルが全部割れている。なんていう、チャンチャラ可笑しいものもあった。

シンバルは、ある程度以上、強く叩いても音は大きくならない。その限界の三倍を越えるほど強く叩かないと、シンバルは割れない。

シンバルを割ってしまうということは、ヘタクソということなのだ。 しかし、割るつもりになれば、中学生でも割ることが出来る。

私には、『暴れた』とか『壊した』とか、、、 何で、こんな話をしたがるのか分からなかった。

今にして思うと、、、このドラムの先輩は、暴れたり壊したり出来ない、気の弱い人だったのだと思う。こういう人が、酒を飲んで酔っぱらうと、面倒なことになりそうだ。

先輩から『土曜日の午後に話をしたい』ということだったはずなので、「ところで、、、話をしたいということですが、どんな話ですか?」と聞くと。。

「俺は、特にないよ。。。あぁ、、、俺のドラムは、大音量だけど、回りから苦情がこない所だろうな?」

「あそこは、ジョン・ボーナムが思い切り叩いても、大丈夫ですよ。でも、サックスとバランスをとるので、ボーカルアンプが手に入るまでは、音量を押さえてもらう事になると思います。」

もう、アルバイトの時間が迫っていたので、、、翌日の練習の、時間・場所・練習バンドであることだけを伝達して、この日は終わった。

 

 Hey Joe (Acoustic)   

https://www.youtube.com/watch?v=_-UnJw8a8YU

 
翌日の日曜日、先輩は車でドラムを運んできた。大きな、真っ赤なドラムである。しかし、グレードの低い物だった。

楽器は、一般的に皆そうだが、グレードの低いものは遠鳴りがしないので、、、ロックなどの大音量のジャンルでは、アンサンブルから抜け出しにくい。要するに、ドラムの音が聞き取りにくい。

サックスの生音とバランスをとるので、今のうちは大丈夫だろうけれど。。。

そして、先輩が叩いたとたん、弱点が露見した。。。

まず、、、チューニングの問題である。胴鳴り(太鼓のドンという音)が小さすぎる。アンサンブルから抜け出して聞こえるのは胴鳴りなのだ、、、それに、少しアタック音やヘッドの鳴りが混ざって聞こえる。それが、本来のドラムの音なのだが。。。

グレードの低いドラムは胴鳴りがぼやけた感じなので、さらに、その胴鳴りが小さいとなると、、、 アンサンブルの中から聞こえてくるのは、パタパタというアタック音とか、コンコンとか聞こえるだけで、、、ドラムらしい音は、まったく聞こえてこないはずだ。

原因は、、、低い音を求めるあまり、ヘッドのテンションを下げすぎていることによる。下げすぎると、胴鳴りは小さくなってしまう。テンションを下げすぎると低音の源である胴鳴りが小さくなって、聞こえなくなってしまうということだ。

専門的な話になってしまったので、、、

ついでに、ドラムのチューニングの基礎を、簡単に話そうと思う。チューニングに関心のない人は、、、 今回は、ここで終わり、ということにしていただきたい。。。

  

 Stairway to Heaven Led Zeppelin Lyrics

https://www.youtube.com/watch?v=qHFxncb1gRY

  

胴鳴りとは。。。

『胴鳴り』という言葉を聞いて、、、 太鼓の胴に耳を近づけて『胴鳴り』を聞こうとしたり、胴にさわって「あまり振動してないよな。。。」などと言っている人がいたが。。。 私は、これを、ほほえましく見ていた。というか、面白かった。

私も、同じ事を中学一年の吹部でしていたのだ。先輩が、、、「バ~カ。胴鳴りは、遠くにいくほど分かりやすいんだよ。遠くだと、胴鳴りしか聞こえないからな。胴の大きさや長さで鳴りかたが違うから胴鳴りって言うんだよ。」と教えてくれた。

ドラムのチューニングの目的は、①胴鳴りを、出来るだけ強くだす。②音質を固くする(高い・遠鳴り)か、ソフト(低い、豊か)にするか、、、である。

②の音質は、テンションを強めにすれば固くて遠鳴りしやすい、、、弱めにすればソフトで遠鳴りしにくくなる。だから、ロックのように、低いピッチで遠鳴りさせたい場合は、サイズの大きな太鼓で、テンションを強めにすれば良いということだ。
マイクで、音を拾うことを前提にするなら、大きいサイズにこだわる必要はないが。。。

①の胴鳴りは、、、楽器屋さんの書籍コーナーで何冊か解説書を見たが、、、分かるように書いてあるものがなかった。

プロドラマーは、ケチなのだ。。。じゃなくて、企業秘密ということなのだろう。

『胴鳴り』を強く出すには、、、注意事項は山ほどあるが、なぜか注意事項だけは解説書に書いてあるので、、、ここでは、基本的なことだけ紹介する。

『均一』

まず、ヘッドには、均一にテンションをかける。均一であれば胴鳴りは大きくなる。反対に、アンバランスにすればするほど、鳴りに表情がでてくるが、胴鳴りは小さくなって、極端なバランスにすると胴鳴りが聞こえなくなってしまう。

均一にする一番簡単な方法は、『テンション・ウォッチ』を使うことだが、『テンション・ウォッチ』がない場合は、チューニング・ボルトを締める手加減を均一にする。

この『手加減』に頼る方法では、、、 シェル(胴)やフープやヘッドのリムに、微妙な歪みがあるので、ある程度は不均一になってしまうが、、、偶然、鳴りが良い表情になるかもしれないので、そこに、期待するのも良いかもしれない。


トップとボトムの『バランス』

トップ側のヘッドを普通に叩いて、トップ側のピッチを聞く。そして、また、トップ側のヘッドを普通に叩きながら、今度は、ボトム側のピッチを聞く。

この時、トップ側よりボトム側のピッチがほんのわずかに低い状態が、胴鳴りが最も短く、最も大きい。

この状態は、、、 ヘッドが比較的、新しいうちは、トップ側のテンションより、ボトム側のテンションの方が、強くなっている。

さらに、ボトム側のテンションを弱めるか、トップ側のテンションを強めると、胴鳴りが長くなりソフトな鳴りになる。

ここで、注意事項。。。ボトム側は、ちょっとチューニング・ボルトを回しただけで極端に変化するので、、、仕上げの段階ではトップ側で調節することがお勧めだ。

胴鳴りの長さが二倍になると、胴鳴りの音の大きさは半分になる。違う言い方をすると、、、二倍ソフトにすると、胴鳴りの大きさは半分になる。

先程のバランスの取り方で、、、反対に、ボトム側のピッチがほんのわずかでも高く聞こえるたら、胴鳴りが全て、トップ側に跳ね返っているので、バンドの正面では、ほとんど聞こえなくなってしまう。 これを、詰まるとか、跳ね返ると言う。常に、トップ側からボトム側に抜けていなければダメなのである。

ドラムのチューニングの基礎は以上である。


あと、マーチングのバスドラであるが、、、

トップ側とボトム側の、両方を叩く奏法の場合は、、、双方の、テンションを同じにすることが多いので、胴鳴りがソフトで、小さくなって、遠鳴りもしなくなってしまう。どんなリズムを叩いているのか聞き取れなくなってしまうのだ。

そういう場合に都合が良いのが、CSヘッドである。

CSヘッドは、ヘッドの真ん中付近のフィルムが二枚重ねになっているので、そこを硬いマレットで叩くとアタック音がはっきり聞こえる。

バスドラの場合は、その特性を生かして、聞く人に手品のような錯覚をおこさせる事が出来る。

硬いマレットでCSヘッドを叩くと、コンコンとかガンガンみたいなアタック音がでる。そして、両面のテンションが同じ場合は、長く・ソフトで・小さい胴鳴りが、このアタック音と同時に鳴るのだ。

マーチングバンドのバスドラが視覚に映ると、当然、そのバスドラからは太い音が出ているに決まっていると思い込む。

すると、不思議なことに、、、アタック音と小さな胴鳴りが、迫力のあるバスドラの音に感じてしまうのだ。

手品と同じで、、、やってる側は、「こんな、ガンガンした音でヤバくね~か~」と思うのだが、、、後で感想を聞くと、「すごく迫力があったよ。とくに大太鼓が気持ちよかったよ。」

これは、錯覚なのだ。。。


話のついでに、、、ドラムスのバスドラの穴について。。。

「穴が開いているんだから、チューニングなんか関係ねーんだよ。」と言った彼のドラムは、、、穴の開いていないタムのチューニングも『関係ねー』状態だった。

チューニングが分かっていれば、穴が開いていて胴鳴りが小さいバスドラこそ、チューニングに気を使うのが当たり前なのだ。

穴が開いていても、『トップとフロント(ボトム)のバランス』の取り方は同じである。。。


『胴鳴り』をコントロールすることが、チューニングの基本なのである。。。

 

ジャンプ  ヴァン・ヘイレン

https://www.youtube.com/watch?v=aEwExybnUec