吹奏楽 マーチング ダンシング

パフォーマンスで、感動を共有できることは、、、幸せだ

連載 吹奏楽とロック 5

 

 

高校三年生の初夏になった。

私は、大学には行かずに、直接、就職する予定であったから、のんきな高校生活を送っていた。 この時代は、大学に進学する方が少数派であった。そして、私には、進学コースの受験生の姿が気の毒に見えていた。

当時は、『就活』なんて言葉は無かった。 経済が右肩上がりだったので、常に人手不足だったのだ。だから、就職で苦労することは、ほとんど、なかった。

しかし、「のんきな高校生活」という言葉は、私には、当てはまらないのかもしれない。教室で机に向かっている時間より、ラーメン屋で、働いている時間の方が長かったからだ。

「のんきなラーメン屋見習い」が、高校だけは卒業しておくか。。。
というわけではなかったが、、、 ラーメン屋からは、そんな感じで見られていた。

ギターのほうは、、、 本気でやるつもりはなかったので、依然、デタラメみたいなものであったが、サイドギターリードギターを、LPレコードに合わせて、テキトーに弾ける程度にはなっていた。

そろそろ、ドラムを買うだけのお金もできたし、いよいよ、本業のスタートかぁ~。 と考え初めていたのだが、、、 この後、意外な展開になっていった。

ドラムを入手したら、すぐにでもロックバンドで修行をするのが、当初の計画であったが、、 その、肝心のロックバンドがない!  私の回りの、どこを見渡してみても、影も形もないのだ。

自ら、バンドを編成するしかないみたいだ。

思えば、、、 吹奏楽では、メンバーも楽器も練習する場所も、指導してくれる人も、すべてそろっていた。

それが、、、ロックバンドでは、自分一人でスタートして、仲間を集めて、自分達の力で、すべての環境を整えなければならないのだ。

この時代の軽音楽は、吹部が余白でやるか、、、軽音部が、十数人でジャズ系をやるようなものしかなかった。軽音部では、ロックは出来なかったのだ。

私は、、、 バンドを編成するならするで、気合いを入れてやってやろうという意気込みであった。

しかし、その意気込みは、すぐに肩透かしをくらった。

学校の生徒会の掲示板に、『ロック・フォークコンサート』というチラシが貼ってあるのを見つけたのだ! 地域のアマチュアが集まってやるみたいだ。プロの出演はなく、『無料』となっている。

ロックバンド名は、三つ書いてある。私の身近では、この存在が知られていなかっただけなのだろう。

私は、期待をふくらませていた。 バンドが三つあるのだから、どこかのバンドでドラムの予備要員になれそうだ。予備だったら、掛け持ちも可能かもしれない。 

 

 ロング・トレイン・ランニン  ドゥービー・ブラザーズ

https://www.youtube.com/watch?v=bCnM-mB6t3A

  

私は、日曜日のコンサートに、一人で行ってみた。気負っていたのか、開演の30分前には会場についてしまった。まだ、関係者だけで、客は数人しか来ていない。

会場は、野外の常設ステージで、雨が降ったら中止みたいな所ではあるが、ロックなどのデカイ音では、反響音が少ないので、良い音響特性だとも言える。

しかし、開演30分前なのに、ステージの上にドラムがセッティングされてない。ベースアンプもない。ただ、ギターアンプだけが置いてある。

大きなギターアンプだった。スピーカーボックスの高さが150cmほどもある。 私は、ステージの方まで見に行った。

私は、ギターアンプのメーカーや機種の知識が無かったので、この時は、すごいアンプだと思って見ていた。

ステージ上では、スタッフが忙しく動いていた。しかし、そのなかの一人が、大声で怒鳴りはじめた。

「何言ってるんだよッ! この土壇場で!」

「ごめん。。。」

「ごめんですめば、刑務所はいらねーんだよ!」

主催者が、出演者を責めているようだ。

「俺たちが、、、ここのスタッフが、何か悪いことしたか? お前たちに、迷惑をかけたことがあるか?」

「ないよ。俺たちが、一方的に悪いよ。」

「お前ら、、、計画的に嫌がらせをやってるのか? 3バンドが全部、連絡もなしに来ないって、どういうことなんだよ。」

「ほかのバンドのことは知らないよ。今から来るかもしれないし、、、」

「来るわけねーだろう。バカヤロー。集合時間、2時間もすぎてるじゃネーカ。バカか、お前は。。。お前、逃げるなよ! ソロでもなんでも、15分以上はやれよ!」

私は、驚いた。 吹奏楽では、このようにステージに穴を開けるようなことは、見たことも聞いたことも無かった。しかも、土壇場で3バンド全部、、なので、、話を聞いているだけで、気持ちが悪くなってきた。このコンサートはどうなってしまうのだろう。。。

しかし、このような時は、、、 正直に出て来た者が責められる、、、というか、八つ当たりされるのだ。世の中は、理不尽であることが、普通なのだろう。

 

 Crosby Stills Nash - Carry On / Questions

https://www.youtube.com/watch?v=nP0VBB7BO64

 

ロックバンドの演奏がなくなって、あてが外れたが、、、もう一つの目的があったので、フォークを見ていくことにした。

もう一つの目的とは、、、ボーカルの発掘である。

吹奏楽時代に、、、軽音楽をやった時、、、
エレキギターエレキベースそして、ドラムが大音量でやると、、、金管楽器のソロが、聞こえなくなってしまう。 マイクを使っても、普通のきれいな音を出していたら、存在感が無くなってしまうのだ。

だから、ロックボーカルには、金管楽器並みの音圧と、それ以上の存在感が要求されるのではないかと考えていた。

存在感だったら、、、後ろの方の芝生の土手で聞いている方が、かえって、分かりやすいかもしれないと思った私は、土手の方に向かって歩いて行った。

すると、、、土手の上に、見たことのある奴が。。 私と同じ、就職コースの、となりのクラスの秀才が芝生に座っている。

彼は、成績がずば抜けていたので、学校側から進学を勧められていた。就職クラスでも進学は可能だった。

彼は、大学なんて馬鹿が行くところだから、行きたくないと主張していた。まだ、過激な学生運動で荒れていた時代だったのだ。

私は、「ロックバンドは、全滅だって。メンバーが集まらないらしいよ。」

秀才が「3バンド全部?」

「全部みたいだよ。」

「あいつらの無惨なステージを見たかったのに残念だ。。。」

そして、「やっぱな。。。」吐き捨てるように言った。

「やっぱ、、、って、予想してたのか?」

「みんな、女にもてたくて、、、バンド始めたんだから、動機が不純なんだよ。きっと、バンド名の入ったコンサートのチラシが欲しかっただけだよ。女だますために。。。」

「アマチュアバンドが、女の子にもてるかな~」

「ツールのひとつ、、、なんだろうな。。。」

私は、今では、、、
視点を変えれば、、、 彼らは、女の子に『夢を見させている』と、言えなくもない。と、思う。そういう男の方が、女の子にとってみれば楽しめるかもしれない。 そう考えると、プロのバンドだって色々な点で、『夢を見させている』のであって、、、 どちらも虚像なのだ。

演奏活動を実際にやって金を取っているか、、、活動はしていないが金も取らないかの違いだけであって、、、魅力のない男どもの悪あがきだと考えれば、大したことではないとも思える。

そうは言っても、コンサートの関係者にしてみれば、ふざけるな!と言いたくなるだろう。
でも、本当は、主催者側が、インチキを見抜かなければダメなんだと思う。

 

 Jethro Tull - Bourée (French TV, 1969 'La Joconde')   

https://www.youtube.com/watch?v=pqxwXla3-Bw

 

秀才が、「お前、ギターアンプを見てたけど、ギターをやってるのか?」

「一人で、安物のエレキで、テキトーなこと弾いたりしてる。」

「あのアンプ、デカイけど安物だよ。50wだけど、音量も音質も25wぐらい、、、お前、ロックなのか?」

「ロックを好きだけど、ギターの方は、まだロックにはなってないな。。。」

ロックを理解するためだなんて、、、 話し始めると、説明の説明みたいになって、面倒くさくなりそうだったから、いいかげんな事を言っておいた。

しかし、このことが、、、後にとんでもなく影響することになるのだ。。 

 

 Creedence Clearwater Revival - Suzie Q.

https://www.youtube.com/watch?v=18kqUNG9mO4

  

コンサートが始まった。

フォークというから、ピーター・ポール&マリーとか高田渡みたいな感じだと思ったら、、、ほとんどが吉田拓郎のコピーで、一人だけ井上陽水のコピーで、オリジナルは一曲もなかった。

だから、フォークコンサートというよりは、流行歌コンサートであった。

有望なボーカルはいなかった、、、ギターの弾き語りであるから、なんとか聞こえてはいるが、音圧とか存在感とか言う以前のレベルであった。

最後に、ロック?のギターソロがあったが、、、 スケール練習というか、、、フィンガー トレーニングみたいな感じで、、、 このようなコンサートは、人材探しには、時間の無駄であると、知ったことだけが、有意義であった。。。

私は、帰り道、、、秀才と二人で、ロック談義に花を咲かせながら歩いた。

私は、改めてロックバンド結成を、メンバー探しから考えなければならなかった。

 

 The Rolling Stones - Paint It, Black (Official Lyric Video)   

https://www.youtube.com/watch?v=O4irXQhgMqg