連載 吹奏楽部 MEMORIES 10
今回は、ピッコロについて。。。
楽器のピッコロフルートではなく、、、 ピッコロというニックネームで呼ばれている女の子である。
Marianna Żołnacz - SEVERIO MERCADANTE Koncert e-moll III część „Rondo russo”
https://www.youtube.com/watch?v=gy3dHiiUWOc
ピッコロは、どこにいても目立つ子だった。
ポーランドのフルート奏者のマリアンナ・ゾナックに似た顔つきで、体型も似ている。 身長は低い方で、きゃしゃに見える体型だ。
したがって、本来なら目立たないタイプであるが、、 同じ制服の集団の中でも、一人だけ目を引く存在だった。
それは、姿勢がとても良いからだった。
立っていても座っていても、真っ直ぐなのである。
しかも、緊張感はなく、力んでいるようには見えない。 本人に聞いても、リラックスしているという。
この姿勢のよさは、やはり、体を鍛えているからだろう。 特に、小さな頃からの背筋運動がそうさせているのだと思う。
ここで、いつも不思議に思うことが、、
小学校低学年の子供が、筋トレや走り込みを、継続してトレーニングしていくことが出来たことだ。
本人に聞いて分かったことであるが、 低学年のころは、「トレーニング」をしている自覚がなかったそうだ。
祖父と遊んでいるつもりだったのだ。
祖父と孫の関係の成せるわざと言うことができる。
そして、もうひとつ不思議なことは、、
やはり、小学校低学年で祖父のLPレコードのコレクションを聞くということだ。
しかも、4年生以降は眠っている時以外、常にBGMで流し続けている。
たしかに、良いものをたくさん聞くことは、良いプレーヤーになるために必須である。
だから、早い時期に、「聞く」習慣を身に着けることが大切なのだが。。。
普通の小学生では、彼女のように常時BGMなどは有り得ないことだ。
本人に聞くと、、、
「祖父のLPコレクションを聞くことは、低学年の頃からとても楽しく、最初から夢中になりました。時には、何時間も聞き入っていたことがあります。」だそうだ。
始めから天才だったのか。。。
何かの仕掛けがあるとしたら、まるで手品のような話である。
実は、、、 これは本当に、祖父のマジックなのである。 仕掛はちゃんとある。
仕掛けを、大雑把にいうと、、、
普通は、、、 知らない歌をピッコロで吹く場合、その曲を聞いてから練習をする。
そして、聞くことと練習することを繰り返しながら、仕上げていく。
ところが、彼女が低学年の時のやり方は、まったく逆で、、、
練習を先にして、出来るようになってからレコードを聞くようにするのだ。
すると、、、
当然、聞いたことのある曲で、しかも「わたし、この曲、吹けるのよ」ということになる。
あとは、聞きながら、演奏を少しずつ修正していく。
聞くことも、練習することも楽しくなるという仕掛けになっているのだ。
では、手順を追って、この仕掛けを精密に説明しようと思う。
言い方をかえれば、「天才少女のつくり方レシピ」の公開ということになる。
第一段階は、、、
祖父が、目をつけたLPレコードに収録されている、全ての曲のメインのメロディをピックアップする。
そのメロディを、現段階の技術で演奏できるように、できるだけ易しくアレンジする。
そして、日曜日の練習の時間に、譜面を見せながら、ピアノなどで弾いて聞かせる。
次に、無理のないように、ピアノとピッコロをユニゾン(同じメロディ)で練習する。
彼女はこの曲を、月~土曜日にメトロノームに合わせて練習する。
ある程度のレベルに達したら、ピアノなどで伴奏してアンサンブル!
レコードの収録曲の全曲を、同じように練習する。
易しくアレンジしてあるので、この全ての行程は結構スムーズに進むそうだ。
全曲出来たところで、彼女がレコードを聞くと、、、 すべてが知っている曲で、しかも、自分が演奏できている曲!
これで、聞くことが楽しくない、なんてことはありえない。
そして、次のLPレコードに進むのであるが、、、
第二段階、、、
当然、前のレコードの易しいアレンジの部分は、彼女自身が、レコードを聞きながら耳でコピーして、演奏を修正したくなる。
技術的に難しい部分は、祖父が練習曲を書いて、、、レベルアップして、、、本来のメロディを吹けるようにしていく。
第三段階、、、
この行程を繰り返していくと、彼女自身が、レコードを先に聞きたくなる。
そこで、祖父はアレンジした譜面とレコードを、彼女に渡すようにする。
これが、マジックのすべてである。
人の感情は「嬉しい」か「嫌」かの、二つしかない。 最初に、嫌なイメージを焼き付けるか、楽しくスタートするかは、その後の展開がまるで違うものになってくる。
楽しいことが、大切なのだ。
だから、3年生の一時期は、アニメの主題歌や、子供の流行歌をやっている時期もあった。 祖父が、テレビアニメのオープニングとエンディングを一回だけ見ると、、、 次の日曜日には、メロディーの譜面と伴奏の準備ができている。
彼女は、、、 祖父の伴奏で歌ったり、ピッコロを吹いたりする。
常に、楽しさを優先する。 楽しければ、子供は夢中になる。
なんと、頭の良いお祖父様であろうか!
天才は、良い指導者と、適したDNAが出会ったときに生まれるのだと思う。
Lucie Horsch speelt fluitconcert Vivaldi
https://www.youtube.com/watch?v=T9CWDId0iHY
小学校六年生のピッコロは、すでに、高校生レベル以上だったと思われるが、そのピッコロが、来年、就学する予定の中学校、、、 私が、一年生でシンバルをやっている吹奏楽部の、学園祭の発表会に来た。
彼女は、吹奏楽の生は初めてで、祖父のLPレコードで聞いたことがあるだけだった。
彼女は、我が吹奏楽部が、とても難しいことをやっているように思えた。
特に、和音が特殊なものに聞こえたそうだ。
我が吹奏楽部の、各楽器同士のピッチ(音程)が少しづつずれていたから、「特殊」に聞こえてしまったのだ。
管楽器は、ある程度の技術を持っていないと、吹き方でピッチが不安定になってしまう。さらに、温度変化でピッチが狂ったりもする。
中学生のバンドである。技術も低く、経験も浅い。 ピッチが、完全に揃うわけがない。
しかも、体育館の中は無駄な反響が多く、音響効果は最低なのだ。
彼女は、どう弾いてもピッチの狂いようがないピアノや、LPレコードのすっきりとした演奏しか聞いてこなかったのだ。
彼女にしてみれば、我がバンドのサウンドは異次元のものだったのだろう。
彼女も、入部してすぐに「とても難しいことをやっている」わけでも、「特殊」でも何でもないことに気づいたはずだ。
「アンダンテとロンド-アンダンテ- / ドップラー」Andante and Rondo -Andante- / Doppler フルート二重奏/白﨑志歩/深澤美香
https://www.youtube.com/watch?v=BsSWrLf1kj4
私のパソコンの中も、頭のなかも、残りわずかとなってきた。
このシリーズが、いつ終わるかは、、、
昔の仲間の情報の、メールがどの程度来るかで決まりそうだ。
「アンダンテとロンド-ロンド- / ドップラー」Andante and Rondo -Rondo- / Doppler フルート二重奏/白﨑志歩/深澤美香
https://www.youtube.com/watch?v=rpa2f6Kkfno