吹奏楽 マーチング ダンシング

パフォーマンスで、感動を共有できることは、、、幸せだ

連載 吹奏楽部 MEMORIES 11


 

私にとっては、最後になる文化祭。。。

残すイベントは、文化祭だけになった。

 

文化祭の準備は、夏休みから計画的に少しずつ行ってきた。 他のイベントの合間に、地道に努力をしてきたのだ。

 

しかし、毎年の事ではあるが、、、 本当に、こんな状態で間に合うのだろうかと心配になってしまう。

 

文化祭で初めてチャレンジする曲などは、、、 余裕があるのが、パーカスとクラとフルートだけで、ほかのパートはグダグダある。 曲によっては、全体練習で音を出せないパートもある。

 

指揮者の私としては、、、 全体の音が聞けないというのでは、どうにもならない。

どう修正するのか、どうつくるのかなんて、まったく見えてこない。

 

本番まで、あと一ヶ月しかない。

しかし、ここで、私がパート練習に押しかけて、あれこれ言ったところで、、、 良くないプレッシャーになるだけで、逆効果になってしまう。

 

どのパートも、一所懸命、誠実にやっているのだ。

 

わたしは私で、、、 役に立つかどうか分からないが、スコアの理解を、1ミリでも深めておくという程度のことしか出来ない。

 

DANNY BOY _ James Galway

https://www.youtube.com/watch?v=xv1rI1kFvwA

www.youtube.com

 

そんな頃の日曜日、、、

一人音楽室のピアノの前で、スコアをにらんでいた。

 

スコアを、一見しただけでサウンドが湧き上がってくるような天才的な人はいいが、私のような凡才は、、、 音をひとつひとつ、ピアノで拾っていかなければならない。

 

だから、今、大したことではない部分なのに、悪戦苦闘している。

 

その時、「こんにちわ~」

いつか、どこかで、聞いたことのある声が。。。

 

入り口の方を振り返って見ると、、、

 

憧れの制服!

 

憧れと言っても、女子の制服である。私が着たくて憧れているわけではない。

 

4年連続で、吹奏楽関東大会に進出している高校の制服である。 私が、目指している高校だ。

私が一年生の時に、三年生でフルートだったOGである。

そして、「機関銃トーク」である。

 

「お久しぶり。 コンダクターだって?」

高校では、指揮者のことをコンダクターと言うらしい。

「シンバルの子が、いまじゃコンダクターかぁ~。もう、二年たつものね。シンバルくるくる回して、かっこ良かったよね。今、部長、誰?」

やっと、私がしゃべる順番になった。

「太陽です。」

「あの子かぁ~。明るい子だからね~。定期演奏会のチケット持ってきたの。あなたも来てね。クラ、どこで、やってる?」

「3Aです。」

「ありがと。」

 

一緒にいるだけで忙しくなる。

 

ピッコロのケースを持っていた。 いまは、ピッコロ担当なのであろう。

 

私は、機関銃で攻撃された心を落ち着かせて、スコアに集中した。

が、集中できない。。。

しかたなく、目をつむって。。。

 

落ち着いてきた。集中できそうだ、、、

落ち着いた途端に、、、

ピッコロのケース!

そうだ、先輩はピッコロを持ってきたんだ!

 

落ち着いている場合ではない。

東レベルの、ピッコロを聞けるかもしれない。 3Aに急いだ。

 

私が、あの高校に入れば、三年生と一年生の関係になる。 少しでも、親しくしておいた方が良いし。。。

 

3Aの教室を覗くと、、、 やはり、もう先輩はいない。 私は、フルートパートの2Bに向かった。 

 

James Galway - Méditation from Thaïs - Jules Massenet

https://www.youtube.com/watch?v=z6w5jNWm034

 

階段をかけ下りて2Bに入ると、、、

すでに、演奏している。

文化祭でやる予定のフルート四重奏である。もう、終わるところだ。

 

終ると、先輩が私に「ちょうど、良かった。あなたも聞いててね。じゃ、頭から12小節だけね。」

 

先輩は、すでにフルートパートを仕切っている。

 

ピッコロが先輩と交代して。。。

 

フルート四重奏が始まった。

piccolo,  flute1st,  2nd,  3rd

 

今年のフルートパートは、中々のものだ。完成度の高い仕上がりである。

 

しかし、piccoloを吹いている先輩は、初見で吹いているのだと思う。 さすがは、関東レベルである。 なんの遜色もない。

 

12小節目までいくと、、、

「じゃ、交代。今度は、あなた。」

 

ピッコロが交代である。

「ちゃんと、聞いててよ。」と私に。。

 

「頭から、12小節!  ワン ツー スリー はい!」

 

四人が、音を出したとたん。

 

あ。 違う!

 

こっちの方が、ハーモニーが美しい!

透明感がある。。。

 

12小節目が終わると、、、

先輩が、「ね。違うでしよ。さっき、ワンテイクやって気が付いたのよ。12小節目までのハーモニーが違うのよ。あなた、どう思う?」

 

「透明感があります。」

 

「私が吹いている方が濁ってる?」

 

「濁ってることはないです。。。 綺麗なんですけど、普通です。」

 

先輩が、「あなた達、どう思う?」

 

パートリーダーが「自分が吹いているせいか、違いが分かりません。」

ピッコロも、「いつも、なんとなく吹いているので、分かりません。」

 

 

「piccoloだけ、頭の音を出して。3拍伸ばして。」

そして、私に「聞いててよ。比較するから。」

 

piccoloの二人が、交互に頭の音を吹いた。

 

音質の、違いは感じない。ピッチも同じで違いはない。

 

先輩は、「何が違うんだろう。。。」

研究者の目になっている。

 

「もう一度、12小節だけ。。。 あなた達四人で吹いて。」

 

徹底的に追求するつもりらしい。。。

 

「ワン ツー スリー フォー!」

 

そして、12小節が終わると、、、

 

「分かった! あなたが、少し低い! 頭のところ」

 

ピッコロを指差した。そして、、、 次に1stフルートを指差して、、、

「あなたも、ほんの少し高い。」

 

「無意識でやってるんだね。口で、ピッチを調節してるんだ。自覚してないでしょ。 でも、どうして、ずれてると綺麗なんだろ?」

 

私は、「顧問のテノールに聞いてきます。」

職員室に向かった。

 

テノールはいなかった。

肝心な時にいない。。。

 

フルートパートの2Bに戻ると、、、 先輩はいなかった。 逃げるように、帰ってしまったそうだ。

 

Mathilde Calderini - Carmen Fantasy - Bizet/Borne

https://www.youtube.com/watch?v=PWqOdGaIUiU

 

パートリーダーが、「先輩が、分かったら教えてくれるって。」

ピッコロも「お祖父様に聞いてみます。」

 

しかし、なぜ逃げるように帰ったのか。顧問のテノールに、何か後ろめたいことがあるのだろうか。

 

あッ! そうか。。。

先輩は密偵だったのだ。

 

ピッコロの評判を聞いて、彼女の値踏みに来たに違いない。

定期演奏会のチケットを口実にして。。

 

そもそも、定期演奏会の準備で忙しいときに、、、 フルートパートで遊んでいくなんて、不自然極まりない。

 

実は、後で分かったことだが、、、 注目されていたのは、ピッコロ一人ではなく、フルートパートの全員の四人であった。

 

この年のフルートパートは、それだけ優秀だったのだ。

 

それだけ凄かったということを、気付かなかった私はボンクラ指揮者ということなんだろう。

 

翌日。。。

 

あの透明感が解明した。

 

パートリーダーが先輩に教えてもらった内容と、ピッコロの祖父の話は、同じものだった。

 

「管楽器の場合は、普通の和音より、 和音を構成している音をほんの少し、高くしたり低くした方が、ハーモニーの響きが美しくなることが多い。

アンサンブルのレッスンを続けていくうちに、自然にそうなっていくということは、基礎的な力がしっかりしているということだ。」

 

先輩が、急に飛び入りでやっても、同じようになるわけがなかったのだ。

 

顧問のテノールに行き合ったので、「透明感」の話をした。 すると、、、

「あたりまえだろう。そんなことも知らなかったのか。。。」

中学生がそんなこと知ってるわけがないじゃネーカ!と、ムカついたが。。。

 

テノールにしてみれば、最初に相談されなかったことで、、、 先に、ムカついていたのだろう。

 

しかし、私の身近でさえ、、、 「なんとなく」、「無意識」に透明感のある美しいハーモニーを奏でる人たちと、、、 そのわずかなピッチの高さを感じとって分析できる人がいる。

 

私の目指す高校の吹奏楽部は、そんな人達ばかりなのだろうか。。。

そうだとしたら、、、 私などが通用する世界なのだろうか。

 

一抹の不安がよぎった!

 

翌日には、そんなことは忘れていたが。。。

 

結局、自分がその高校に入ってみたら、半分以上が、私と同じような凡才だった。

 

我々のように才能のない者達が、努力と根性で全国の壁の手前まで行くのだ。

 

全国の壁を越えるもの達は、、、 才能のある子を集めた学校。

 

そういう、学校はともかく。。。

この、才能のある子達は、応援してあげたくなる。

 

才能は、その子を取り巻く人達の、愛情と努力によって育まれる。 場合によって、まわりは犠牲を払うこともある。

 

本人も、小さな頃から努力を続けてきた。普通の子なら我慢しなくても良いことを我慢して、ほかのやりたいことも切り捨てて、才能を伸ばしてきた。

 

私のように、幼少期をボーッと過ごしてきた者とは違うのだ。

 

彼等には、全国で活躍してほしいと思う。

エリート達に、エールを送りたい!

 

しかし、ふと例外が頭に浮かんできた。

 

才能のない子達が集まって、素晴らしく物凄いことを成し遂げている学校がある。

 

マーチングの方であるが、、、

京都橘高校である。

 

全国どころではない。 世界を楽しませている!

 

校風が、それを可能にしているのだろうが、、、 本人達の、努力と根性は称賛に値する。 もちろん、まわりを取り巻く人達も。。。

 

2017年 京都橘高等学校吹奏楽

https://www.youtube.com/watch?v=toGxAWtWIM0

www.youtube.com