吹奏楽 マーチング ダンシング

パフォーマンスで、感動を共有できることは、、、幸せだ

連載 吹奏楽部 MEMORIES 10

 


今回は、ピッコロについて。。。

 

楽器のピッコロフルートではなく、、、 ピッコロというニックネームで呼ばれている女の子である。

 

 Marianna Żołnacz - SEVERIO MERCADANTE Koncert e-moll III część „Rondo russo”   

https://www.youtube.com/watch?v=gy3dHiiUWOc

 

ピッコロは、どこにいても目立つ子だった。

 

ポーランドのフルート奏者のマリアンナ・ゾナックに似た顔つきで、体型も似ている。 身長は低い方で、きゃしゃに見える体型だ。

 

したがって、本来なら目立たないタイプであるが、、 同じ制服の集団の中でも、一人だけ目を引く存在だった。

 

それは、姿勢がとても良いからだった。

立っていても座っていても、真っ直ぐなのである。

 

しかも、緊張感はなく、力んでいるようには見えない。 本人に聞いても、リラックスしているという。

 

この姿勢のよさは、やはり、体を鍛えているからだろう。 特に、小さな頃からの背筋運動がそうさせているのだと思う。

 

ここで、いつも不思議に思うことが、、

小学校低学年の子供が、筋トレや走り込みを、継続してトレーニングしていくことが出来たことだ。

 

本人に聞いて分かったことであるが、 低学年のころは、「トレーニング」をしている自覚がなかったそうだ。

 

祖父と遊んでいるつもりだったのだ。

祖父と孫の関係の成せるわざと言うことができる。

 

 

そして、もうひとつ不思議なことは、、

 

やはり、小学校低学年で祖父のLPレコードのコレクションを聞くということだ。

しかも、4年生以降は眠っている時以外、常にBGMで流し続けている。

 

たしかに、良いものをたくさん聞くことは、良いプレーヤーになるために必須である。

 

だから、早い時期に、「聞く」習慣を身に着けることが大切なのだが。。。

普通の小学生では、彼女のように常時BGMなどは有り得ないことだ。

 

本人に聞くと、、、

「祖父のLPコレクションを聞くことは、低学年の頃からとても楽しく、最初から夢中になりました。時には、何時間も聞き入っていたことがあります。」だそうだ。

 

始めから天才だったのか。。。

何かの仕掛けがあるとしたら、まるで手品のような話である。

 

実は、、、 これは本当に、祖父のマジックなのである。 仕掛はちゃんとある。

  

仕掛けを、大雑把にいうと、、、

 

普通は、、、 知らない歌をピッコロで吹く場合、その曲を聞いてから練習をする。

そして、聞くことと練習することを繰り返しながら、仕上げていく。

 

ところが、彼女が低学年の時のやり方は、まったく逆で、、、

練習を先にして、出来るようになってからレコードを聞くようにするのだ。

 

すると、、、

当然、聞いたことのある曲で、しかも「わたし、この曲、吹けるのよ」ということになる。

あとは、聞きながら、演奏を少しずつ修正していく。

 

聞くことも、練習することも楽しくなるという仕掛けになっているのだ。

 

では、手順を追って、この仕掛けを精密に説明しようと思う。

 

 

言い方をかえれば、「天才少女のつくり方レシピ」の公開ということになる。

 

第一段階は、、、

 

祖父が、目をつけたLPレコードに収録されている、全ての曲のメインのメロディをピックアップする。

 

そのメロディを、現段階の技術で演奏できるように、できるだけ易しくアレンジする。

 

そして、日曜日の練習の時間に、譜面を見せながら、ピアノなどで弾いて聞かせる。

 

次に、無理のないように、ピアノとピッコロをユニゾン(同じメロディ)で練習する。

 

彼女はこの曲を、月~土曜日にメトロノームに合わせて練習する。

 

 ある程度のレベルに達したら、ピアノなどで伴奏してアンサンブル!

 

レコードの収録曲の全曲を、同じように練習する。

 

易しくアレンジしてあるので、この全ての行程は結構スムーズに進むそうだ。

 

全曲出来たところで、彼女がレコードを聞くと、、、 すべてが知っている曲で、しかも、自分が演奏できている曲!

 

これで、聞くことが楽しくない、なんてことはありえない。

 

そして、次のLPレコードに進むのであるが、、、

 

第二段階、、、

 

当然、前のレコードの易しいアレンジの部分は、彼女自身が、レコードを聞きながら耳でコピーして、演奏を修正したくなる。

 

技術的に難しい部分は、祖父が練習曲を書いて、、、レベルアップして、、、本来のメロディを吹けるようにしていく。

 

第三段階、、、

 

この行程を繰り返していくと、彼女自身が、レコードを先に聞きたくなる。

 

そこで、祖父はアレンジした譜面とレコードを、彼女に渡すようにする。

 

これが、マジックのすべてである。

 

人の感情は「嬉しい」か「嫌」かの、二つしかない。 最初に、嫌なイメージを焼き付けるか、楽しくスタートするかは、その後の展開がまるで違うものになってくる。

 

楽しいことが、大切なのだ。

 

だから、3年生の一時期は、アニメの主題歌や、子供の流行歌をやっている時期もあった。 祖父が、テレビアニメのオープニングとエンディングを一回だけ見ると、、、 次の日曜日には、メロディーの譜面と伴奏の準備ができている。

彼女は、、、 祖父の伴奏で歌ったり、ピッコロを吹いたりする。

 

常に、楽しさを優先する。 楽しければ、子供は夢中になる。

 

なんと、頭の良いお祖父様であろうか!

天才は、良い指導者と、適したDNAが出会ったときに生まれるのだと思う。

 

Lucie Horsch speelt fluitconcert Vivaldi 

https://www.youtube.com/watch?v=T9CWDId0iHY

 

小学校六年生のピッコロは、すでに、高校生レベル以上だったと思われるが、そのピッコロが、来年、就学する予定の中学校、、、 私が、一年生でシンバルをやっている吹奏楽部の、学園祭の発表会に来た。

 

彼女は、吹奏楽の生は初めてで、祖父のLPレコードで聞いたことがあるだけだった。

 

彼女は、我が吹奏楽部が、とても難しいことをやっているように思えた。

特に、和音が特殊なものに聞こえたそうだ。

 

我が吹奏楽部の、各楽器同士のピッチ(音程)が少しづつずれていたから、「特殊」に聞こえてしまったのだ。

 

管楽器は、ある程度の技術を持っていないと、吹き方でピッチが不安定になってしまう。さらに、温度変化でピッチが狂ったりもする。

 

中学生のバンドである。技術も低く、経験も浅い。 ピッチが、完全に揃うわけがない。

しかも、体育館の中は無駄な反響が多く、音響効果は最低なのだ。

 

彼女は、どう弾いてもピッチの狂いようがないピアノや、LPレコードのすっきりとした演奏しか聞いてこなかったのだ。

 

彼女にしてみれば、我がバンドのサウンドは異次元のものだったのだろう。

 

彼女も、入部してすぐに「とても難しいことをやっている」わけでも、「特殊」でも何でもないことに気づいたはずだ。

 

「アンダンテとロンド-アンダンテ- / ドップラー」Andante and Rondo -Andante- / Doppler フルート二重奏/白﨑志歩/深澤美香

https://www.youtube.com/watch?v=BsSWrLf1kj4

www.youtube.com

 

私のパソコンの中も、頭のなかも、残りわずかとなってきた。

 

このシリーズが、いつ終わるかは、、、

昔の仲間の情報の、メールがどの程度来るかで決まりそうだ。

 

「アンダンテとロンド-ロンド- / ドップラー」Andante and Rondo -Rondo- / Doppler フルート二重奏/白﨑志歩/深澤美香

https://www.youtube.com/watch?v=rpa2f6Kkfno

www.youtube.com

 

連載 吹奏楽部 MEMORIES 9

 

知り合いからメールが来た。

 

「本筋から外れている下書きは、使わずに、ハードディスクに残っているはず。溜めておくと、ハードディスクが腐るぞ。全部、吐き出せ。」

 

この知り合いが言いたいことは、「吹奏楽部MEMORIES」の続きを書け、 ということであるが、、、

 

さすが!  彼は「物書きのはしくれ」である。

 

たしかに、、、 ハードディスクの中には、下書きの残骸が大量に残っている。

そして、この残骸の一つひとつは、思い出であり、人生の痕跡なのだ。

 

ハードディスクに残しておいても、永久に埋もれてしまう。 確かに、このままでは、もったいない。

 

「物書きの成れの果て」の意見を取り入れて 、、、 あ。。。 少し違った。

 

「物書きのはしくれ」の意見を取り入れて、、、 ハードディスクの中に散らばっているデータを公開するべきだ。っと言うことで、、、

 

当時の、関係者の批判はかわしつつ。。

 

吹奏楽部 MEMORIES 9」の、

始まり、始まりぃ~。

 

 

今回は、音楽とは関係のない校内強歩大会の話である。

 

男子は、10kmのアップダウンのきついコースで、女子は、6kmの比較的平坦なコースである。

 

強歩大会といえば、、、 ヒーローは、いつも陸上部である。

 

しかし、当時の陸上の部員達は、強歩大会が近づくにつれて、ナーバスになっていく傾向があった。

 

それは、、、 ほかの、運動部に負けたものは、一週間、毎日、裏山を走り続けなければならないというペナルティが課されるからだ。

 

そのペナルティを「地獄の山巡り」と言う。

 

ヒーローになるか、地獄に落ちるかということであるが。。。

 

ほかの運動部の奴らは、陸上部を「地獄」に落とせば、それが勲章になる。

 

昨年は、、、 男子が、サッカー部に二人やられた。 女子は、バレーボール部に三人。。。

 

ここまで、やられるとナーバスになってもしかたがない。

  

【フルート】夜に駆ける/YOASOBI

https://www.youtube.com/watch?v=TIjZUVmt1Eg

www.youtube.com

 

 私は、スタートから、ゆっくり走った。 スタート直後は、みんな先に行ってしまって、置いていかれたような感じになるが、3km地点を通過する頃には、歩いている者たちを追い越し始める。

 

こんな走り方でも、5kmを越えた頃には、前方に見えるのは運動部ばかりである。

 

そして、後ろを振り向いたら、、、 何と、吹奏楽部の大集団が出来上がっていた。

 

一旦は、歩いていた彼らが、途中から私についてきたのだ。

日頃、肺活量を増やすための運動をしている彼らであるから、ゴールが近づいた頃には、私を追い越していくだろう。

 

6km地点を過ぎた頃から、運動部の奴らが歩き始めた!

 

卓球・バスケ・バドミントン・テニスなど、、、  どんどん脱落していく。

 

そして、陸上部キラーのサッカー部!

サッカー部の奴らは、頭から水をかぶったように、ウエアーがびっしょり濡れて、汗の塩分の縞模様ができている。

 

どうやら、陸上部に勝負を挑んで潰されたみたいだ。

 

これはっ!

もしかすると、陸上部と吹奏楽部のワンツー フィニッシュという、とんでもないことが起こりかねない状況になってきた。 そんなことになったら、我が校の歴史に残るだろう。

 

私は、後続の仲間達の方を振り返った。

 

しかし、そこには誰もいなかった。。。

肺活量達は根性がなかったのだ。

 

結局、終わってみたら、私と陸上部の間には、ほかの運動部が数十人いたので、どうでもいい事ではあったのだが。。。

 

男子コースは、、、 6km地点から陸上部だけが、先頭集団を形成するという、つまらない結果に終わった。

 

 

【フルート】元気を出して/竹内まりや

https://www.youtube.com/watch?v=G9WXE6L3puM

www.youtube.com

 

一方、女子コースは、最初からとんでもない展開になっていた。

 

スタート直後に、、、 陸上部キラーのバレーボール部が仕掛けたのだ。

 

陸上部のリズムを乱そうとする、姑息な作戦である。

 

2km地点までは、、、バレーの半数が先行。続いて陸上、また、続いてバレーの残りの半数というかたちのまま、先頭集団が維持されていた。

 

陸上の女子は、髪がまるで男子のようなショートカットであり、バレーはショートより少し長い、ボブくらいの長さである。

 

先頭集団は、、、

ボブ→ショート→ボブの順番であるが、例外はあった。

 

後ろのボブ集団の中に、一本にまとめた長い黒髪をヒョコヒョコと弾ませている小柄な一年生がいる。

 

ピッコロである。

 

さすがは、小学校低学年から走り込んでいるだけはある。 2km地点で、先頭集団に吹奏楽部がいるなんて、初めてのことだろう。

 

しかし、それもここまでだった。

 

先頭の、バレーのボブ達がペースを上げたのだ。 ショートヘアーたちは、あまり離されない程度についていく。

 

3km辺りから先頭のボブが、ひとり二人と脱落していって、先頭はショートだけになったが、、、 これは、バレー部の作戦通りである。

 

4km地点では、、、 先頭集団は、ショートヘアーだけ。

第二集団は、ショートヘアーの一年生ふたりと、その二人にピッタリとくっついて追従する、ボブ集団+ロングの黒髪になった。

 

ここからの、第二集団の1kmは激しいバトルになった。 ショートとボブが頻繁に入れ替わるのだ。

まるで、はぐれた若鹿をいたぶるハイエナの群れのようだ。

 

ロングの黒髪はバトルの後ろを、何を仕掛けるでもなく、淡々と、追走している。 

 

この時、並走している原チャリから激が飛んでいた。

 

原チャリを運転する若手の体育の先生の後ろに、陸上部の顧問の先生がメガホンを片手に乗っている。

 

あ。。。

教師が、原チャリの2人乗りをするわけがない! これは、私の記憶違いである。

ここで、お詫びと訂正をする。

 

この二人は、単なる◯士舘大学のOBである。 そして、単なる先輩後輩の間柄である。

 

この1km間の、バトルを制したのは、若鹿達であった。

ハイエナたちは後方に消えていった。

 

Camila Cabello - Havana (Flute Cover)

https://www.youtube.com/watch?v=1kT_YkqmQLc

 

しかし5km地点で、メガホンが叫んだ!

ブラバン! 4秒ッ!」

 

ブラバン」とは、ブラスバンドの略である。 ピッコロが20~30m後方に迫っているということである。

 

若鹿たちは、背筋が凍る思いだっただろう。

ほかの運動部に負けただけでも、一週間、地獄の裏山を走らされるのだ。

文化系の「ブラバン」に負けたら、単なる◯士舘大学のOBから、何をやらされるのか分かったものではない。

 

ピッコロは、「地獄巡り」の意味を理解していないらしく、真面目に追走している。

 

しかし、、、 若鹿たちは、度重なるバトルで力を使い果たしてしまった。 もう、余力はない。

三人は、このままゴールのある中学校の運動場に入ってきた。 あと300mでフィニッシュだ。

 

運動場では、先にゴールしている、陸上部の女子達の声援に迎えられるかたちになった。

声援を受けているのは、若鹿達だ。

 

女の子の声はよく響く。

それが、「ブラバン」に追われていることに気がつくと、物凄い騒ぎになった。

 

しかし、この物凄い騒ぎを突き抜けて、ピッコロを応援する声が響き渡った。

 

吹奏楽部の顧問の先生の美声である。 先生は、音大の声楽科のテノールである。素人の声とは違う。

運動場の外まで届いている。

 

この時、ピッコロがラストスパートをかけた! 凄い追い込みである。

ピッコロは、陸上部の二人を追い越してしまった!

 

陸上部の声援は、もう、ほとんど悲鳴に近い。

 

しかし、この前代未聞の吹奏楽部の活躍に、狂喜乱舞のテノールの声援の方が勝っている。

大人げないとも言えるが。。。

 

ところが、、、 ゴール30m手前で、ピッコロが失速してしまった!

 

レース慣れしていないピッコロが、力を使い果たしてしまったのか、、、テノールの声援を真面目に聞いて、頑張りすぎてしまったせいなのか。。。

 

先に、ゴールに倒れ込んだのは、ショートヘアー達だった。

 

若鹿たちは、地獄の裏山から免れることはできたが、、、 このレースそのものが地獄だったことは間違いない。

 

そして、ピッコロは、、、

 陸上部とワンツー・フィニッシュという、偉業を成し遂げたのだ。

 

しかし、話はこれで終わりではない。

 

翌日から、裏山を走る一団があった。

 

文化系の「ブラバン」の一年生に負けた、バレーボール部の女子達であった。

 

翌年の強歩大会から、、、 ピッコロは、運動部集団の後ろを走るようになった。

 

Philippe Gaubert - "Fantaisie" - Pałac w Jabłonnie 21.05.2017 r. , Marianna Żołnacz -flet  

https://www.youtube.com/watch?v=XWQKliyOiT0

www.youtube.com

 

連載 吹奏楽部 MEMORIES 8


  

ピッコロは関西には行っていなかった。 特待生の道を選んではいなかったのだ。

それどころか、、、進んだ先は、吹奏楽の弱い、地元の進学校。。。 そんな、うわさは聞こえてきていた。

 

何を考えて、そのようにしているのかは分からないが、音楽の修行は何らかのかたちで続けていくのだろうと思っていた。

 

しかし、違っていた!

 

このことを知ったのは、、、 中学校時代のトランペットリーダーの、夜遅くの電話だった。

 

彼は、、、「ピッコロは、、、 もう、音楽には関わらないんだと。。。 音楽は、もう、やらないって。。。」

 

電撃が、全身を走り抜けた!

 

「何が、あったんだ!」

 

「分からない。 最初は、 親の方針かと思ったけど、、、 ピッコロと仲良しだった子に聞いたら、本人が自分で決めたと言っている。理由は、今は言いたくない。ということだそうだ。」

 

なんたることだ。。。 ピッコロは、どうなってしまったのだろう。。。

 

しかし、本人が決めたのなら、、、 どうにもならない。  我々が、とやかく言うことではない。 そして、何があったのかは、本人にしか分からないのだ。

 

何か、とてつもない理由があることだけは分かる。

心配であるが、、、 いずれ、情報が入るだろう。。。

 

しかし、、、 しかし、、、

しかし、、、 いつまでたっても、何の音沙汰もなかった。

 

そのうち、、、

世の中には、こういう事もあるのだろうと、 ただ、ただ、起きた事実を認めるしかなくなっていた。

 

きっと、私は、永久に真相を知ることはないだろうと思った。

 

そして、、、 五十年近くの年月が流れた。

 

 

先日、、、

 

このブログが、縁となって、、、 ピッコロ本人からメールが届いた。

 

そこには、全てのいきさつが書かれていた!

 

 The Hobbit - Misty Mountains Cold on STL Ocarina

https://www.youtube.com/watch?v=1DHecFcDhbw

www.youtube.com

 

ピッコロが、中学校の吹奏楽部に入ったのを契機に、祖父の日曜レッスンは終了した。

祖父から、吹奏楽部にバトンタッチだ。

我が吹奏楽部には、彼女に技術的な指導をする力はなかったが。。。

 

しかし、朝の走り込みと夜の腹筋・背筋運動は、続いていた。 小学校三年生から、走り込みは、雨や雪の日を除いて毎日になっていた。 

 

走り込みは、毎朝、祖父と一緒だった。

距離は1㎞だったが、後半の方で、25mの全力のダッシュが2回ある。 まるで、自衛隊のレンジャー訓練のような走り方だ。

 

ピッコロが、中学生になっても、、、 全力ダッシュでは、祖父についていけなかった。 本当に、強健な人であった。

 

しかし、二年生の冬、、、 祖父が、走り始めてすぐに、胸を押さえて動けなくなってしまった。 顔色が悪く、、、 声を出すのもつらいほどの痛みである。

 

ピッコロは、この、普通ではない異変に、躊躇せずに救急車を呼んだ。

 

心臓病であった。 

祖父は、、、 激しい運動を、医師から禁じられた。 この時から、一緒に走ることが出来なくなってしまった。

 

しかし、ピッコロは毎朝、一人で走った。 雨の日も雪の日も!

 

ピッコロは、、、 毎日走っていれば、また、祖父が元気になって、一緒に走ってくれるような気がしていたのだ。 

 

だから、一日も休めなかった。

 

しかし、ピッコロが毎日走ったところで、良くなるわけがない。

 

彼女が三年生の初夏には、発作を繰り返すようになってきて、、、

夏休みには、亡くなってしまった。

 

彼女は、、、 老いと病気と死の現実を目撃し、体験した。

病気と死が存在することを、本当に実感したのだ。

 

大切な人が、奪われてしまった。

なのに、何もできなかった。

 

彼女は思った。。。

どうして、人はこんなにひどい目にあうのだろう。 何も悪いことはしていないのに。。。

 

強大で絶対的な自然の摂理の前では、人は無力であることを知った。

 

人を幸せにできる。 そういう演奏を目指して修行してきた彼女であったが、、

音楽で人の心や体を癒やせたところで 、 最後に人は、、、 自然の摂理に飲み込まれてしまう。

 

彼女のまわりには、このことを理解しあえる仲間はいなかった。

人は、本当の意味では、体験したことしか理解できないのだ。

 

だから、だれにも相談しなかった。

 

自然の摂理に、少しでも対抗できる方法 。 それは、今まで歩んできた道ではない。

 

彼女は、一人で決意した。

 

医師になる!

 

決意した、その日から、、、 走り込みと、筋力トレーニングはやめた。

そして、残りの吹奏楽部の活動と、受験勉強に全力をそそいだ。

 

春には、目指していた進学校に入ったが、、、 吹奏楽をやりながら医大に合格する自信はなかった。

 

ピッコロは、、、 何を捨てて、何を取るのか、よく分かっていた。 

 

彼女は、音楽を捨てた。。。

 

金メダルを獲得したアスリートよりも、家族のため、世のため人のために、アスリートの道を断念した人の方が立派である。。。

 

彼女は、正に、そういう人であった。

 

 

Laura Wright - The Last Rose Of Summer 

https://www.youtube.com/watch?v=LqtSmj7zxmw

www.youtube.com

 

 

ピッコロは、医大で医師免許を取得し、総合病院の勤務を経て、開業医となった。

 

今も現役で、、、 医師を続けている。

 

 

あの時、、、 音が出ただけで大好きになったフルート。。。

その定められた運命は、、、

祖父の愛情を触媒にして、、、 医師になって、多くの人々を救うことに昇華された。

 

 

ピッコロは、あたたかい家庭を築くこともできた。

 

彼女は、週末には家族アンサンブルを楽しんでいるそうだ。

 

彼女が担当する楽器は、、、 

ピッコロ、フルート、ピアノである。

 

 

思い出話に付き合ってくれて、、、 ありがとう。

 

 Dmitri Shostakovich: Waltz No. 2 - Carion Wind Quintet

https://www.youtube.com/watch?v=_2Y1hCgDvNE

 

忘れじの言の葉 full

https://www.youtube.com/watch?v=r1kSHo58zsM

 

 

 

連載 吹奏楽部 MEMORIES 7

 


音楽室の、いつもサックスパートが展開している辺りに座り、スコア(フルスコア・総譜)を広げた。
そして、ステージに設置してあるオーディオで、LPレコードをかける。


サックスパートのまん中の辺りが、左右の音のバランスが良く、スッキリした音質でもあり、この場所を気に入っていた。

 

今は、個人練習の時間帯であり、部員たちは校舎のあちらこちらに散らばっている。
だから、いつも、この時間は、指揮者の私が音楽室を独占している。

 

スコアには、すべてのパートのすべての楽器の楽譜が、並列に記されている。
正確に言うと、我がバンドのすべての楽器より、楽譜の方が多い。

 

たとえば、オーボエファゴットなどのダブルリード楽器は、マーチングバンドには使えないので、、、 我がバンドにない楽器が記されている曲もあるのだ。

 

今日の作業は、、、 文化祭に向けて、初めて挑戦する曲のLPレコードを聴きながら、スコアをチェックして、我々が持っていない楽器の部分を無視して良いかどうかの判断をすることだ。

 

私の出した結論は、、、 スコアに記されているオーボエは省いてしまっても良い。 この曲の、オーボエは、音を長く伸ばしているだけの、大したことのない裏旋律なので無視して良いのだ。

 

今回は、自信がある! 昨日から、このレコードを5回も聞いて、確かめているからだ。
しかし、万が一ということもあるので、、、 いつも通り、彼女にチェックしてもらうことにする。 ピッコロの彼女である。

 

実は、「万が一」ではなく、、、 すでに、数回の私の判断ミスを、彼女に指摘してもらっている。。。

 

【風笛】動画でレッスン 名曲をもっと素敵に!ザ・フルート Vol.158 島村楽器 二子玉川店 フルート インストラクター安田玲子

https://www.youtube.com/watch?v=i5QnNz8_zx8

 


事前に頼んでおいた彼女が、音楽室に現れた。

 

「このスコアだけど、、、 フルート4thとオーボエは省いていいと思う。」と言いながら、私はスコアの正面から退いて、彼女に場所を譲った。

 

オーディオは、止まっていて音楽室は静かになっている。 レコードとスコアの、アレンジの違いがあるので、彼女の場合は、スコアだけで判断したほうが良いのだ。

 

彼女は、スコアの正面に立つと「この曲は、聞いたことがないですねぇ~」と言いながら、、、 この曲のテンポで、体を大きく、そして、ゆったりと揺らしている。 彼女は、スコアを見ているだけで、頭のなかに全体のサウンドが展開する。

 

この、ずば抜けた読譜力は、6年以上のピアノの経験から来ているのだと思う。

 

彼女は、頭の中での演奏が終わると、、、

 

「このオーボエは、省けません。 ここからここまで主旋律を吹いています。」
「え??? それ、裏旋律だろう。。 その部分は、クラが主旋律だよね。。。」
「いいえ、このオーボエ、、、 全音符で伸ばしてますけど、これが主旋律です。 クラは、アルペッジョです。ほら、ここのユーフォとホルン、同じ和音ですよね。」

 

「アルペッジョ」とは、分散和音のことで、はやい話が「伴奏」である。

 

私は、スコアを見ながら、LPレコードを五回も聞いたのに。。。 伴奏の方を主旋律だと思い込んでいたのだ。 指揮者、失格である! 失格は、初めから分かっていた事ではあるが。。。

 

彼女はスコアを見ながら、頭の中で演奏しただけなのである。

 

私が、「選曲を間違えたかな。。。」と言うと、、、

「E♭クラを使えば、音質面はカバーできますよ。 部長が吹いたら、綺麗だと思いますよ。」

 

さらに、彼女からダメ押しが来た。

「フルートの4thは、根音を吹いているので省かないほうが良いと思います。 それよりも、ピッコロは、1stフルートの1オクターブ上で補佐しているだけなので、、、 うちの1stは、抜け出し安い音質ですから、、、 ピッコロを省いたほうが良いと思います。 私が、3rdを吹いて、リーダーに4thをお願いして・・・」

 

私は、もう立ち直れない。。。 それだけの、精神的ダメージを受けていることを彼女は、分かっていない。。。 
まぁ、、、 いつも、ここから這い上がってはいるが。。。

 

この後、すぐに、部長のところに行って、、、
「今度の曲、、、 オーボエのところを、ちっちゃいクラで吹いてもらいたいんだけど」
「私に出来るかしら。。。」
「綺麗に吹けると思うよ。」
「そうかなぁ~」
「ピッコロが言ってたから、まちがいない。」
「また、教えてもらったの? ハハハハハ」

 

私は、本当はピッコロが指揮者をやるべきだと、いつも思っていた。
が、フルートパートから名手を引き抜くなんてことが出来るわけがない。


私は、卒部するまで、彼女に教わりながら、不本意ながら指揮者を続けた。

 

Irish March (Fife & Flute) – Wouter Kellerman (Live)  

https://www.youtube.com/watch?v=o1WPnnvs00I

 

 文化祭が終わり、とうとう卒部である。

 

顧問の先生が、卒部する三年生一人ひとりに、ほめ言葉を贈った。

 

私には、、、
「お前は、大したものだ。私のところに、教えてくださいと一度もこなかった。そんな指揮者は、お前が初めてだ」


「ピッコロに教えてもらってました」


「だから、大したものなんだよ。目的を達成するためには下級生からだろうと何だろうと、なりふり構わず教えてもらう。これは、なかなかできる事じゃない。これからの人生の強みになると思うぞ。」

 

ほかにほめる事が、何もなかったのだろう。。。

 

このあと、、、
二年生と一年生の、 ひとり一人と、一言ずつ、言葉を交わした。

 

わたしは、、、 ピッコロに、お世話になったお礼を言ってから、、、
東京芸大を目指すんだろう。」
「それも選択肢に入っています。 それより、高校入試、、、頑張ってくださいね。」

これが、、、 実務的な会話ではない、彼女との、唯一の私的会話であった。

 

 

私は、狙いの高校に合格することができた。

 

狙いと言っても、人生設計などまるで考えていなかった。 コンクールで、全国に最も近い学校を狙っただけのことだ。

 

これからは、行進曲などという低次元なものとはお別れだと、とんでもない考え違いをしていたのだが、、、 その間違いに気づくには、何十年も年月を要した。

 

いずれにしても、、、 これからは、シンフォニーだ、全国だと、血沸き肉躍る青春に突入した。 まったく、前しか見ていない。。。 イノシシみたいなものである。

 

しかし、このイノシシは、秋のコンクールで、全国という壁に激突して討ち死にした。 関東で敗れたのだ。

 

そして、次こそはと、冬には牙をといで、春を迎えていた。

 

ところが、、、 このイノシシが太い首で、後ろを振り返らざるを得ない出来事が起きた。

 

高校二年の4月のことである。

 

つづく  ( 次回で、終わるかも・・・ )

 

Tchaikovsky - Rococo Variations for Solo Piccolo & Orchestra  

https://www.youtube.com/watch?v=PUakpHzvVFs

 

連載 吹奏楽部 MEMORIES 6

 


文化祭が終わり、三年生が卒部した。

この時期は吹奏楽部が、もっとも、弱体化する時期だ。

 

特に、この年のフルートパートは大変だった。 

三年生が二人抜けて、残ったのが二人。

 

この二人の苦闘は、翌年の夏まで続いた。

 

ピッコロ担当の一年生は、欠員対策でフルートを吹くことの方が多くなっていた。 この頃の彼女は、まだ、フルートは高音の方が美しかったので、1stを担当した。 ピッコロとフルートを頻繁に持ちかえなければならない曲もあった。

 

この一年生も大変だったが、もっと大変だったのが、パートリーダーの二年生だった。

 

パートリーダーは、低い方の音が美しいので、今までは、3rdがある曲は、いつも3rdを吹いていた。 しかし、二人しかいないので、高い音の多い2ndを吹かなければならない。 しかも、ピッコロを省けない曲は、自分が、もっと高い音の多い1stを吹かなければならないのだ。

 

フルートパートは、3rdを失ってサウンドの厚みがなくなった。その上、リーダーは、3rdという支えがない中で、慣れていない1stや2ndを吹くのだからパートのクオリティーが低下するのはしかたがない。

 

リーダーは、我がバンドのレパートリーの半分を、練習し直さなければならなくなっていた。 これを春のイベントまでに、間に合わせなければならないのだ。

 

フルートパートは、機能不全をおこしていた。

 

この時期の二人は、まるで修行僧のように、黙々と個人練習に没頭していた。 

 

まあ、、、 ほとんどのパートが、同じような状況なのだが、、、 部員のほとんどが、この状況から抜け出そうともがいている時期なのだ。

いずれにしても、まともな全体練習は出来なかった。

 

季節の冬は、、、 そのまま、 吹奏楽部の冬だった。。。

 

春になり、このような状況を、やっと、乗り越えたのだが。。。

 

乗り越えたと思った直後に、新入部員が入ってきた。 ほとんどが、初心者で、当然、才能のある子はほとんどいない。

 

この才能のない子たちを、9月までに鍛え上げて、各イベントやコンクール、そして、文化祭で活躍できるようにしなければならない。

 

しかも、フルートパートは、二人で二人の新人を指導しなければならないのだ。

本当に、この年のフルートパートは大変だったと思う。

 

しかし、良いこともあった。 運が良かった。

と言うよりは、努力の結晶なのだが。。。

 

新人のふたりが、七月頃には美しい高音を出せるようになってきたのだ。 そして、夏休みが終わる頃には、新人の1stと2ndのグッドペアが誕生した。

 

パートリーダーは、古巣の3rdに 戻って。。。

 

九月に間に合った!

 

各自、得意な piccolo、1st、2nd、3rdという、理想的なフルートパートが誕生した。

 

あとは、発表だけだ。

 

これが、フルートパートの一年間だった。

 

しかし、、、 また、三年生が卒部して、苦闘の、冬が来る。。。

 

まったく、吹奏楽部というところは、、、 自転車に乗っているようなもので、ペダルを回し続けなければ倒れてしまう。

まぁ、何でも、、、 そうだろうけれど。。。

 

 フルート『青春の輝き/I Need To Be In Love/カーペンターズ島村楽器 フレンテ南大沢店 インストラクター演奏/音楽教室/レッスン

https://www.youtube.com/watch?v=Kc6awjYdwKM

 

また、一年前の冬の始まりに戻ろう。

 

新しい部長は、太陽のような女の子が選ばれた。 だれもが、一緒にいるだけで、温かい気持ちになって、元気になることができた。

 

私は、この太陽から、指揮者に指名された。

 

理由は、私がビッグバンドジャズのLPレコードをよく聞いていること。 音楽室の、レコードコレクションの中で、マーチやシンフォニー等の貸出件数が一番多いこと。 要するに、よく「聞き込んでいる」ということだった。

 

しかし、本当の理由は、、、 他の、どのパートから指揮者を引き抜いても、ダメージを大きく受けてしまうということだ。 パーカスの、残る三人は、みんな優秀なので、やっていけるだろうという予測だった。

 

ところで、、、 彼女の、ピッコロの技術レベルだが、、、 彼女が一年生の冬の段階で、高校生の関東レベルに近いものか、それ以上だったと思う。

 

だが、ソロについては、、、

高校生の全国トップレベルのソロを聞いても、、、 私は、なかなか強く引き込まれるような事は無いのだが、彼女のソロを聞くと、一気に引き込まれてしまうのだ。

 

技術は、明らかに全国のトップには及ばないはずであるが、、、 彼女のソロは、一気に引き付けて、感動を与えてくれる。

 

彼女のソロは特別なのだ。 

 

私は指揮をとるようになって気づいたのだが、、、 彼女のソロは、ピッコロであろうとフルートであろうと、ただ強弱の抑揚をつけているだけではなくて、、、 バンドサウンドの流れに対して、ほんのわずかであるが、部分的に遅れたり先に行ったり、、、 要するに「もたったり」、「突っ込んだり」している。

さらに、時には、ロックミュージシャンのように、そのソロ全体が、常に、わずかに先を走って緊迫感を表現することもあったり。。。

 

タイミング的に、ジャストで表現することの方が少ないくらいである。

 

だから、彼女のソロは表現力が豊かで、すぐに、聞いている人の心をとらえてしまう。 彼女は意識せずに、これが出来ているようなのだ。。。 これについては、プロの演奏家に遠くない能力を持っているのではないかと思う。

 

この能力を、彼女がどのようにして身に着けたのかは、メトロノームの使い方に、ポイントの一つがあると思う。 私は、あと二つのポイントがあると思っているが、それは、また、あとで。。。

 

【名クラシック】フルートソロ 「タイスの瞑想曲」

https://www.youtube.com/watch?v=M8XsCdQTAmw

www.youtube.com

 

彼女が、小学校五年生のある日、、、

 

「上手になったから、これは、もう邪魔だね。」と、祖父がメトロノームを棚の上に片づけてしまった。

 

今までは、再三、メトロノームをよく聞いて合わせるように言っていたのに。。。

特に、頭は注意深くピタリと合わせるように、しつこく言っていた。

 

それを、突然片づけてしまったのだから、、、   彼女は、「どうして?」と当然の質問をした。

 

「これからは、好きなように吹きなさい。 好きなように吹くと、心の中のメトロノームにぴたりと合うんだよ。 心のメトロノームは、ほんの少しだけ速くなったり遅くなったりするんだけど、機械のメトロノームは、ずうっと同じだから、邪魔になってしまうんだよ。」

 

「なぜ、心のメトロノームのほうが良いの?」と、当然の質問が。。。

 

「それはね、、、心のメトロノームの方が、聞いてくれている人が幸せになれるからなんだよ。」

 

この、「・・・聞いてくれている人が幸せになれる・・・」

この言葉が、彼女の人生観に大きくかかわっていると、私は確信しているが、、、

 

では次は、彼女の「心のメトロノーム」がどうやって出来たのかについて、ふたつめのポイントだ。

 

彼女は、何年もかけて才能を育ててきた。 

 

彼女に比べたら、私が「聞き込んでいる」なんて、チャンチャラおかしい。。。

彼女は小学校二年生から「聞き込んでいる」。 祖父の、LPレコードのコレクションから、特に、声楽(ボーカルの曲)を中心に聞いてきた。

あらゆるジャンルに渡って。。。

クラシック・日本と世界の民謡・ジャズ・ビートルズのようなロックそして、ゴスペルやブルース・ポップス・・・ まだまだ、あるだろう。。。

 

彼女の部屋は、眠っているとき以外、いつもBGMが流れていた。 いつも、音楽に満たされていた。

 

私より、年はひとつ下ではあるけれど、音楽的な経験年数は彼女の方が、五年以上長いことになる。。。

 

声楽中心は祖父の方針だそうだ。 やはり、ピッコロやフルートのようなメロディー楽器には必要なことなのだろう。 

 

良いもの・好きなものを、たくさん聞くこと。 考えてみれば、当たり前である。

 

特に、彼女の聞いたものは、声楽に特化していた。

だから彼女のソロは、歌っているのだろう。

 

 

Maria Callas - Ave Maria 

https://www.youtube.com/watch?v=j8KL63r9Zcw

 

もうひとつ、指揮を執っているときに気がついたことがある。 これが三番目のポイント。。。

 

彼女は、ある状況になると、、、 ものすごい感情移入、、、 大げさに言うとトランス状態になる。 本当には、トランス状態にはならないが。。。

そう言いたくなるくらいの感情移入である。

 

本当に、心を込めて、、、 なりふり構わずに、、、 没頭している。。。

バンドの仲間たちも、「えっ・・・」と思ったことが、一度や二度ではないはずだ。

 

この「ある状況」とは、、、

 

誰かが、聞いてくれているときだ!

それが、一人であろうと、何百人であろうと同じである。

 

精魂込めて、「聞いてくれている人が幸せになれる」演奏をしようとしているのだと思う。

 

彼女のソロが特別であることは、、、 他にも理由があるのかもしれないが。。。

 

ただ、いまだに分からないのが、、、 

 

音が出たとたんに、こちらの心に届く、、、 そして、聞いていたくなる。

これは、プロのミュージシャンでも当然あるが、プロだからといっても、そうならない方が多い。

うまいとか下手でもない。アマチュアでも、心に届くものがある。

 

これは,相性とか好みとかでもない。

 

正直に言うと、、、 私は、吹奏楽よりもベニー・グッドマンやグレンミラーのようなビッグバンドジャズの方が好きであった。 マーチやほかのクラシックは好きなものが少なかった。

 

ただ、音楽室のLPレコードの中に、稀に心に届く、聞いていたいものがあった。自分でも、不思議だった。クラシックを好きでもないのに、しかも吹奏楽と関係ないのに、スメタナモーツァルトの弦楽五重奏に心を奪われてしまったり。

 

理屈抜きに快感だったので、時々、「心に届く」ものを探した。 簡単だった。 曲の出だしを15秒も聞けば、自分の心に届くものが判断ができる。

LPレコードの、貸出枚数がトップになって当然だ。 

 

彼女の、吹いているジャンルは、どれも私の好きなものではなかった。 にもかかわらず、聞き入ってしまう。

音質などは、他の上手な人たちと変わらないと思うのだが、、、 彼女の場合は音を出した瞬間に、私だけではなく、複数の人の心をとらえてしまう。

何が違うのかは、未だに私には分析できない。  

 

【フルート】桜色舞うころ【再UP】

https://www.youtube.com/watch?v=rIFs1h6eDoo

www.youtube.com

 

彼女が二年生の時に、関西の私学高校から吹奏楽特待生のオファーが来た。

関西。。。 どうやって、見つけ出すのだろう?

 

私は、下校時間の5分前に、そのことを、トランペットのパートリーダーから聞いた。

校門に向かって、歩きながらである。

 

彼は、さみしそうな表情をしている。

私も、聞いたとたんにさみしさに襲われた。 彼女にとって、喜ばしい事なのかどうかは、彼女と、ご家族の問題なので判断はできないが、、、

 

ただ、、、 彼女は、俺たちがいる場所なんかに、いちゃいけないんだ。 彼女は、エリートたちの中で活躍するべきなんだ。 俺たちみたいな、ポンコツの中にいてはいけない子なんだ。

 

そう思うと、無性にさみしくなってしまった。

彼も、同じ心境であった。

 

すると、、、 後ろの方から来た、「太陽」の部長が、、、「先のことだからねぇ~。 どうするのか、分かんないよね~。」

 

部長は、いつも、最後に鍵をかけて、、、 下校時間ぎりぎりに校門を通過する。

 

「でも、あの子がどこに行ったとしても、、、 ここが、楽しい思い出になると思うの。。。 誰が、どこに行っても、ここが良い思い出になるのよ。 楽しい思い出づくりしよっ!」

 

部長は、そう言いながら、私たちを追い越して先に行ってしまった。

 

私は、、、 そうだよな。 楽しくしなきゃ。。。 まるで、日が差したように、気持ちが明るくなった。 トランペットリーダーも、明るい表情になっている。

 

日が差したといえば、、、 「太陽」の部長!

あなたはすごい! 追い越しざまの、ほんの、20秒程度で、、、

俺たちの、冷え切った心の霜を、瞬時にとかして、そして、温めて下さった。

 

あぁ~! 太陽の女神の天照大御神様!

 

すると、彼が「部長が、先にいったってことは、もう、時間なんじゃないの? やばい! 先生が、こっちをにらんでるぞ!」

 

二人は、全速力で校門に向かった。。。

 

つづく 

 

Sir James Galway - Phil the Fluter's Ball (In Concert at Armagh Cathedral)    

https://www.youtube.com/watch?v=_aJMRCvOVW8

 

 Concerto for Flute and Harp KV 299 (2nd movement)

https://www.youtube.com/watch?v=00iO7FXWhx8

 

連載 吹奏楽部 MEMORIES 5

 


毎年、夏休みの前にリーダー会議が開かれる。

 

出席メンバーは、部長、副部長、指揮者兼DM(ドラムメジャー)、各パートリーダー、各パート副リーダーである。

パーカッションは三年生が一人なので、二年生の私が副リーダーだった。

 

夏のリーダー会議のねらいは、、、 夏休みに一気にレベルアップして、秋をむかえようという所にある。 我々にとって最大の秋のイベントは、文化祭である。 コンクールは別にして、、、 文化祭の、前に三つのイベントがあるが、二年生や三年生の感覚では、それらは練習みたいなものだ。 そして、その中で、一番楽しいのがパレード! だが、まあ、パレードのことは置いといて。。。 

 

文化祭では二時間枠を取って、、、 事実上の、定期演奏会を行う。 だから、家族も見にくる。 この二時間を最後に、三年生は卒部していく。。。

 

会議では、サックスパートから「マーチングバンドなのだから、文化祭は、校内をパレードしてはどうか」という意見が出た。

 

当然の意見と思われたが、、、

 

パーカッションリーダーが、「DMめがけて、屋上からサッカーボールが落ちてくるぞ。 バスドラは、水平に牛乳ビンが飛んでくるぞ。 なぁ。。。」と、私に、同意を求めてきたので、、、

「パーカッションリーダーが吹奏楽部でなかったら、やりかねませんね。。。」と言いたかったが、、、

「やりかねませんね。。。」だけにしておいた。

 

ある意味リアルな忠告に、女子達が意気消沈してしまったので、校内パレードはやらないことになった。

 

Gioachino Rossini Semiramide Overture Piccolo Excerpt Inteiro 

https://www.youtube.com/watch?v=2hypnGtLvoo

 

面白かったのが、、、

パーカスリーダーが、今年のパーカス・アンサンブルは和太鼓でやる。 和太鼓も、地域から借りられるし、譜面も、リーダーが書くというのだ。

 

私は、事前に聞いていなかったので、、、 「まさか、今、思いついたんじゃないでしょうね。」

「お前、俺をなめてんのか! あ~? 企画を、温めてたんだよ。」

 

私は、、、 二年生に反対されて、潰されるのが恐くて、隠してやがったな。。。 と思ったが、、、 

 

小学校時代に、リーダーが和太鼓の会で頑張っていたのを知っていたので、、、

賛成しようと思った矢先、、、

 

「和太鼓なんて、ばちをしっかり握って、思い切りぶっ叩けばいいんだよ。 ここのパーカスなら楽勝だよ。」とリーダーが言うので、、、

「和太鼓は、難しいと思いますよ。 太鼓を歌わせるというか、、、」

「そう、そこは難しい。 でも、お前たちならできるよ。」

 

楽勝なのか難しいのか、どっちなのかよく分からない話だが、、、 リーダーが、どうしてもやりたいのは分かったし、みんなの目が、、、 事前に、パート内で決めとけよ、、、 みたいになっているので、、、

 

私の「やっても、いいですよ。」で、、、 決定された。

 

私は、この時点では、本番が、あんなにすごいことになるとは思っていなかった。 我々の演奏が、すごいのではなくて、、、 すごかったのは、客席のほうだった。

 

和太鼓の会の人たちが、はっぴを着てハチマキで、、、 彼らは、その恰好をすると気合が入るらしく、、、 声援が、ものすごく。 応援団より声がでかい! 拍手や手拍子も半端ない。 それも、気合の入った真剣な表情でやってくれる。

 

パーカス・アンサンブルの時は、私たちの太鼓の音より、声援と拍手の方が大きかった。 和太鼓の会ここに有りっ! という感じだ。

 

また、律儀な人たちで、、、 吹奏楽部の、演奏が全部終わるまで帰らなかった。 すべての曲に盛大なというか、でかい音の拍手を送ってくれた。

 

Love is an Open Door - Frozen [flute/piccolo cover]  

https://www.youtube.com/watch?v=TuC-abHcJDY

 

また、ここで、、、 リーダー会議に戻ろう。

 

フルートパートは、、、 フルート四重奏をやるという。

 

三曲の予定で、そのうち一曲はフルート×4で、いくそうだ。 そうすれば、ピッコロの一年生のフルートの練習にもなるという。

 

ところが、、、 練習を始めてみたら、おかしなことが起きた。。。

 

ピッコロの一年生は、この時、初めてフルートを吹いてみたのだが、、、 

低い音が出ないのだ。 

 

「スー」 という、息の音だけしか出ない! 

 

彼女は、頑張って何とかしようとしているが、まともな音が出ない。

 

誰も、こんなことは予想していなかった。 

結局、一か月ほど特訓をして、何とかできるようになったが。。。

 

普通、フルートからピッコロにいくと、、、 ピッコロの高音がまともに出なくて苦労する。 ところが、彼女の場合は、全く逆で、フルートの低音が出なかった。

 

みんな、これを見ていて不思議だった。 彼女が、この吹奏楽部に現れた時は、神か悪魔か、はたまた鬼か、、、と畏怖したが。 

 

「スー」である。

「息の音しか出ない」のを見て、、、 彼女も普通の人間だったことを再認識した。 でも、この時、人間として認識するだけではなく、彼女は「一年生」なのだとしっかり認識しておくべきだった。

 

そうしていれば、あのステージの悲劇は起きなかっただろう。

 

【フルート4重奏】

君をのせて / 天空の城ラピュタ / ジブリ /

フルート演奏 / 演奏してみた / フルートアンサンブル

https://www.youtube.com/watch?v=G6jsHgza2no

  

彼女の、あのステージでの「星条旗よ永遠なれ」のソロの失敗。。。 乱れ始めたら、そのまま、坂道を転げ落ちて奈落の底へ。

 

彼女の、過剰な責任感もあるだろうが、、、

やはり、「一年生」だったのだ。

 

この時は、普通であれば、トラウマになってしまうほどの精神的なダメージを受けている。

 

しかし、驚くほど、立ち直りが早かった。 三日後には、彼女は何事もなかったかのごとく振舞っていた。

そして、その後、彼女が大きなミスを犯すことはなかったのだ。

このことは、常識的には考えられないことだ。

 

まず、立ち直りが早かったことは、、、 徹底した心のケアによる。

 

 両親と祖父。 そして、吹奏楽部の存在も大きかった。

 

翌日の練習に出てきた彼女も立派だったが、、、 みんなが温かく迎えたこと、、、 そして、特筆すべきは、部長の配慮である。

 

この日、部長命令が発せられた!

 

内容は、、、「フルートパートの二年生と三年生は、二週間、部活が終わったら、彼女を自宅まで送り届ける事。」

 

何のことはない。 みんなで、おしゃべりしながら帰るだけのことなのだが、、、 この、効果も大きかったと思う。

 

しかし、部長命令がなかったとしても、、、 フルートパートは、同じことをしただろう。

 

実は、部長命令の真意は、ほかの所にあった。

 

ただでさえ、迷惑をかけていると思っている彼女が、、、 送ってもらうことを申し訳なく負担に感じてしまう。 その気持ちを、強制力で押し切ったのだ! 彼女の心の負担を半減するために。。。

 

気配りの部長は、心理学者であった。 部長はこの時、中学三年生である。

すごい!としか言いようがない。。。

 

千と千尋の神隠し 久石譲/あの夏へ  上野星矢 

https://www.youtube.com/watch?v=2MUXsXg9Tyg

 

もうひとつの、、、 その後、彼女が大きなミスをしなくなったのは、、、

 

意外であった。 なんと、フルートパートの二人の先輩のアドバイスなのだ。 このことは、メールで彼女本人が言っている。

 

パートリーダーが、、、「ミスした時は、、、慌てては、かえって良くないので、ちょっと演奏を止めて、次の、切の良いところから、吹くのよ。 」と言うと、二年生の先輩が、「一度、深呼吸をしてからでもいいくらいよね。」

 

なんと、悠長な。。。

 

しかし、たしかに、このアドバイスの心理効果は大きいと思う。 

 

最悪の事態をさける方法があるという保険。。。 

保険に入れば、心にゆとりが生まれる!

 

さすがは、立て直しのスペシャリスト達である。。。

  

 Béla Bartòk: Romanian Dances for piccolo and piano   

https://www.youtube.com/watch?v=wc6vKqBO-gU

 

ピッコロの一年生は、部活のなかで、このころからバッグを持ち歩くようになった。

中には、ピッコロとフルート、ほかは、譜面、教則本、タオル、ピッコロの中の結露を取る道具。 フルートは、半分近く外に出ていたが、、、

 

この量だと、バッグがなければ移動できそうもない。

 

座奏の場合は、脇にバッグを置いていた。 バッグの中に、フルートとピッコロを立てる仕掛けがあって、曲の途中でもフルートとピッコロを持ちかえて吹けるようにしていた。

 

つづく

 

The Joyful Birdie for piccolo & piano by Hans-André Stamm

https://www.youtube.com/watch?v=LNzMxQsgKtE

 

連載 吹奏楽部 MEMORIES 4

 


私は、個人練習で屋上にいた。

いつも、天気の良い日は、パーカッションパートが屋上を独占している。

 

通常だったら、そろそろ、パート練習の時間であるが、、、

今日は、パート練習がないので、引き続き二年生だけで個人練習を続けることになっている。

音楽室で、三年生が入部希望者の対応をしているのだ。

 

今年は事前情報で、トランペットとパーカッションに優秀な子が来るそうだ。

木管の情報はないので、おそらく初心者だけだろう。

 

我々、パーカッションパートはラッキーかもしれない。

どんな子が来てくれるのか楽しみだ。

 

下の階からスネアのマーチングソロが聞こえている。三年生がデモンストレーションをやっている。

 

しばらくすると、三年生が、一年生を二人つれて屋上に上がってきた。

「発表は明日だけど、この二人で決まり。 二年!  頼むぞ!」

硬派のパーカッションパートらしい、ぶっきらぼうな紹介だ。 紹介は、これで終わりである。

 

一年生は、自己紹介をさせられるのだと思って、顔が緊張している。

 

一年生は、かわいい。

二人は、真新しい制服を着てかがやいているので、中身まで新しいかのように思えてしまう。

私は内心、「宝は磨かなくても、はじめからピカピカじゃないか。。。」と思って、ふき出しそうになった。

 

すると、三年生がこそこそと我々二年生の近くによって来て、、、

小声で「フルート、すげーのが来た。」

 

一年生は、ほったらかしである。

 

「よかったですね。」

私は、小学生レベルで「すげー」のだと思っていた。

 

先輩は、私の反応が鈍いので、追い討ちをかけてきた。

「ピッコロは交代だな。」

「えーッ!そんなにすごいんですか。」

 

どうだ、驚いたかという顔で

 

「物凄い。。。」

「ノーマークだったんですか。どこかから引っ越してきたとか、、、」

「普通に来た。 コンクールや発表会なんかに出たことはないんだと。」

 

彼女は、両親の方針でコンクールや発表会は、ピアノだけ出ていたのだ。

 

「ピッコロの三年生は大丈夫ですかね。ここ四ヶ月、ピッコロに慣れるための特訓をしてましたよね。」

「お前、三年生の心配してるのかよ。この程度で、へこたれる奴が二年間も吹奏楽を続けられないよ。」

 

Celtic Hymn for piccolo & piano by Hans-André Stamm

https://www.youtube.com/watch?v=cTNtXcDtALU

  

ここで、先ほどのスネアのデモから20分ほど前にさかのぼる。 場所は、音楽室の中。

 

 

部長は、音楽室の小さなステージに、一人で陣取って、新入生を見渡していた。

今年は、吹奏楽部の新しい宝が沢山きてくれた。

 

だから、今、ほっとしているところだ。

 

しかし、今年は第一希望が極端に偏っている。 金管は、トランペットとトロンボーンに集中している。

木管は、サックスに集中している。 クラリネットは去年と同じゼロ。 フルートは一人しかいない。  珍しいことだが、フルートの定員は、今年は一人なのでとりあえず問題はない。

 

しかし、この極端なかたよりが、後になって障害にならなけれが良いのだけれど、、、 部長の心配事が、また一つ増えた。

 

スーザのパートリーダーが、スーザフォンをぐるぐる回すパフォーマンスをやっている。 一年生たちは「おー!」と注目するが、それだけのようだ。 第一希望の変更には、結び付きそうもない。

 

クラの三年生たちは、例年通り、座ってまわりのパートをながめている。

 

大盛況のサックスパートは、机の上にバリトン・テナー・アルトそして、稀に使われるか使われないかのソプラノまで並べている。 サックスは、きらびやかで見栄えが良い。

一年生の女子のほとんどが、このサックスを囲んで目を輝かせている。

三年生は、各サックスの特徴を説明しているようだ。

 

部長自身は、ベニー・グッドマンの存在をパーカッションの二年生(私)に教わってから、ジャズを聴くようになって、クラリネットを本当に好きになった。 高校の吹奏楽部でも、クラリネットを希望したいと思っている。 軽音楽部のレベルが高かったら、そちらに行ってもいいかなと考えたりもする。

 

だから、部長はこの情景を見て、少しさみしかった。

しかし、感傷的になっている場合ではない。 部長の仕事をしなければならない。

 

部長が、なにげなくフルートパートを見ると、少し、様子が変だ。 机の上に、希望用紙を置いて三年生の二人が見入っている。 小柄な一年生が一人、ぼんやりとした表情で立っている。

 

部長が動いた。 気配りの部長は、いつも、問題が起きる前に動き出す。

 

部長が、希望用紙をのぞき込むと、、、

第一希望欄に、、、フルート(ピッコロ)  第二と第三に、 お任せします と書いてある。

 

三年生たちは、このカッコ書きの部分で、パートではなく楽器を指定していることに困惑しているようだ。

 

部長は「ピッコロをやりたいの?」

一年生は「フルートは練習したことがないので、自信がありません」

 

「ここにきている子たちのほとんどが、未経験者なの。 だから、吹いたことがないのは問題じゃないんだけど。 ピッコロはいつから?」

「小学校一年生からです。」

 

パートリーダーが「へー、私たちより長いんだ。。。」

 

パートリーダーは、、、 この一年生が、二か月ぐらいフルートの基礎練習をすれば、すぐに戦力になるかもしれないと期待したが、反面、変な癖に染まっていなければ良いのだけれどと、少し、心配でもあった。

 

「好きなように、吹いてみて。」

パートリーダーは、机の上を指差した。

 

机の上には、いつも使用後に、必ず、ていねいに磨き上げられている、美しく輝くピッコロとフルートが置いてある。

 

一年生は、「吹いてみて」の一言に反応して、体がカーッと熱くなるのを感じた。 顔も赤くなっている。

 

彼女は家族以外の、人前でピッコロを演奏したことがないのだ。 一年生の彼女から見れば、三年生は大人に見える。 彼女はこの大人の、たった一言で動揺してしまった。

 

机の上のピッコロを手に取ったが、、、 何を吹いたらいいのか、、、

 

部長が、笑顔で「何でもいいのよ。ゆっくり考えて、選んでね。」

 

彼女は、先日、おじい様にほめられた曲にしよう。 あれなら、恥ずかしくはない。。。 と、思った。

 

その、「褒められた曲」とは、彼女の祖父が書いてくれた練習曲のことだ。

 

祖父はいつも、彼女の音楽的な成長に適した、練習曲を書いてくれていた。 練習曲といっても、テクニカルなだけではなく、心に染み入るメロディーとか、心を高揚させるメロディーなどをもとにアレンジしたものだった。 この「褒められた曲」も、オペラのソプラノボーカルをアレンジしたものだ。

 

先日・・・ 褒められた。。。 そう、最近書かれたもので、、、 

ピッコロを吹き始めて6年。 祖父の、指導が始まってから5年の、到達点の練習曲である。

 

ここで、この曲の構成を専門用語なしで説明しよう。

 

二分間程度の短い曲で、前半はスローテンポ。 後半は急に速くなる。

 

最初は、高い音程の音だが、とても小さな音を伸ばすところから始まる。 小さな音のロングトーンである。

これは、ピッコロにとっては、とても難しい吹き方になる。

ピッコロという楽器は、息を速く、息を鋭く吹かなければ鳴ってくれない。 音程が高くなるほど、その傾向が強くなる。 だから、どうしても大きな音になってしまう。 これを、コントロールして、小さく、はっきりと、美しく吹かなければならないのだから、高い技術が必要となる。

 

そして、曲はゆったりとスローテンポで進みながら、だんだん大きな音になっていく。

 

スローテンポは、難しい。。。 どうしても、ふらついてしまう。 

特に、マーチングバンドは、スローテンポを苦手とする。

 

後半は、一転。 かなり速いテンポで、さらに大きな音量になりながら進んでいく。  1オクターブ以上の、高い音と低い音の落差の大きいメロディーが進んでいくのだ。 そして、その中でトリッキーにアクセントが入る。 だから、変則的なリズムに感じるメロディーになっている。

 

ピッコロを構えた彼女の指先は、緊張してしまって細かく震えている。  体が熱く、上半身全体から汗が吹き出している。

 

音楽室のガヤガヤとした騒がしさが充満したなかで、、、 とても小さく高く、そして、美しいロングトーンが鳴りはじめた。

 

部長と、フルートパートの二人の三年生は、息をのんだ。 幼さが残る一年生の雰囲気と、この洗練された音質のギャップに思考回路が停止した。

 

となりのクラリネットパートの三年生たちも、この美しいロングトーンの方向に視線が釘付けになった。 机の上を見ると、フルートしか置いてない。 やはり、この音は、この吹奏楽部のピッコロから出ているものだ。 しかし、いつもの音とは、まったく違う。 クラリネットパートも固まった。

 

ロングトーンは、ひかえめに、少しずつ大きくなっていき、メロディに移行していく。

曲は、ゆったりとスローテンポで進行している。 美しいメロディーだ。 彼女は、抑揚をつけて吹いている。

 

ユーフォのパートリーダーが、「部長が、デモ始めろって言ったか? ん?」

フルートパートの所でピッコロを吹いている一年生を見たとたん、彼も固まった。

 

ガヤガヤとうるさかったサックスパートの三年生たちも、この、いつもと違う感じに、フルートパートの方へ視線を送った瞬間に黙ってしまった。

 

一年生たちは、物音を立ててはいけないといった雰囲気にのまれている。

 

そして、音楽室に静寂がおとずれた。

聞こえるのは、美しいピッコロの音だけだ。

 

ピッコロを吹いている彼女にしてみると、突然、なぜかまわりが静かになってしまって、、、

まわりの視線は感じるし、、、

 

両足が震えはじめてしまった。

指の動きもこわばってしまう。

 

しかし彼女は、必死に頑張った。 そして、なんとか無事にスローテンポの前半を抜け出して、アップテンポの後半へ。。。

 

アップテンポになると、演奏するもの自身の気持ちも高揚してくるものだ。

 

足の震えも止まり、指もスムーズに動くようになった。

 

聞き入っている三年生たちの、気分も高揚してくる。 

 

その時、突然、高い音のアクセントが金属的な刺激音に!

 

彼女は、驚いて顔をしかめながらコントロールしようとするが、また、高域のアクセントが刺激音になってしまう。

 

部長は、すかさず、、、 笑顔で手を三回、パンパンパンとたたきながら、「はい!はい!は~い! オッケーで~す。」

 

「お上手ね。」

 

気配りの部長の、ドクターストップである。

 

先輩たちは、思い切り拍手をしている。 一年生も、つられて拍手。。。

三年生たちは、いつの間にかフルートパートを取り巻いていた。

彼女の醸し出すサウンドは、ほんの二分もたたないうちに、ここにいる三年生全員の心をつかんでしまった。

 

ところで、先ほどの「金属的な刺激音」。。。

部長と、フルートパートの三年生は、この「刺激音」が何だったのか分かっていた。

 

それは、シルバー合金のピッコロが、彼女のアタックに耐え切れずに発した悲鳴だったのだ。 安物ではないのに、我が吹奏楽部が保有するピッコロは、彼女のパワーにノックアウトされてしまった。

 

しかし、マーチングバンドにとって、パワーは大歓迎だ。

 

部長は、、、

「明日から、あなたのピッコロを持ってきてね。」

 

三年生たちは、ピッコロ担当の三年生の表情をチラ見すると、すぐに視線をそらした。

 

ピッコロ担当は、まわりを見回しながら、「あなたたち何をやってるのよぉ~」

 

部長が、「四か月間、お疲れ様でした。 この経験は・・・」

部長の言葉をさえぎって、「部長まで、なに言ってるの。 私は大丈夫だから。」

 

ここで、ジタバタするのは恥である。 バンドのクオリティ向上のために、いさぎよく身を引くことは誇りである。 この時代の日本には、まだ、恥の文化が色濃く残っていた。

 

ピッコロ担当は、フルートのデモンストレーションはパートリーダーに任せて、自分はピッコロを分解し始めた。 このピッコロを、倉庫の長期保管コーナーに納めるため、今から念入りに手入れをするのだ。 それが終わると、保管コーナーから、、、 明日からの戦友、、、 フルートを出してきて、手入れをする。

 

明日からフルート担当になる、彼女は、、、 すでに、前に向かって歩き始めている。 吹奏楽部という所は、そういう所だ。

 

吹奏楽部の事情など分からない、、、 明日からピッコロ担当になる、一年生は、、、

ほめられたことで、ほっとして、この時はニコニコしていた。

 

後日、、、 事情を理解した、ピッコロ担当の彼女は、旧ピッコロ担当に謝った。 目に涙をいっぱい溜めて。。。

 

驚いた先輩は、「みんな、あなたにピッコロを吹いてもらいたいのよ。私も、あなたにピッコロを吹いてもらいたいの。だから、もう泣かないで。。。」とハグをした。

 

このタイミングでのハグは、もっと泣けと言っているようなものだが。。。

 

あっ! しまった。 ここは、感動的なシーンであった。

 

このような子だったから、、、 フルートパートのお姉様たちは、彼女のことが、、、 いつも、可愛くて、可愛くて、仕方がないといったような接し方をしていた。

 

【フルート&ピッコロ】海の声/BEGIN /桐谷健太【TAKE2】再UP

https://www.youtube.com/watch?v=H0UrrPBF66w

www.youtube.com

 

可愛いといえば、、、

フルートパートには、おかしな風習? いや、伝統があった。

 

日曜・祝日の練習は、全体練習がなく、パート練習と個人練習だけであった。

だから、練習内容は、パートリーダーに任されていた。

 

そんな、日曜日。 昼休みが終わって、午後の練習が始まるときに、私はおかしなことに気がついた。

 

ピッコロ担当の一年生の髪型が、朝と違っているのだ。 そして、帰るころになると、朝、来た時の髪型に戻っている。 この怪現象が、日曜・祝日ごとに毎回起きる。 時には、エキセントリックな髪形だったりするが、それも、良く似合っていて、かわいい。

 

私は、一年生の時は、目の前のことで精いっぱいで気づかなかったのだが、、、

フルートパートの伝統で、、、 先輩たちが、一年生で遊ぶという風習があったのだ。

 

このころの私は、「あいつら、暇なのか」と、少し、否定的だったのだが、、、

今では、コミュニケーションを深めるためだったのだと、、、

言うなれば、、、 サルの毛づくろいみたいなものだと、肯定的にとらえている。

 

つづく

 

Peter Verhoyen, Stefan De Schepper, DAMARE Le merle blanc from PICCOLO POLKAS Album

https://www.youtube.com/watch?v=YAI7vNmvovU

 

Less Common Instruments

https://www.youtube.com/watch?v=v62YjjV-Roo