連載 吹奏楽部 MEMORIES 5
毎年、夏休みの前にリーダー会議が開かれる。
出席メンバーは、部長、副部長、指揮者兼DM(ドラムメジャー)、各パートリーダー、各パート副リーダーである。
パーカッションは三年生が一人なので、二年生の私が副リーダーだった。
夏のリーダー会議のねらいは、、、 夏休みに一気にレベルアップして、秋をむかえようという所にある。 我々にとって最大の秋のイベントは、文化祭である。 コンクールは別にして、、、 文化祭の、前に三つのイベントがあるが、二年生や三年生の感覚では、それらは練習みたいなものだ。 そして、その中で、一番楽しいのがパレード! だが、まあ、パレードのことは置いといて。。。
文化祭では二時間枠を取って、、、 事実上の、定期演奏会を行う。 だから、家族も見にくる。 この二時間を最後に、三年生は卒部していく。。。
会議では、サックスパートから「マーチングバンドなのだから、文化祭は、校内をパレードしてはどうか」という意見が出た。
当然の意見と思われたが、、、
パーカッションリーダーが、「DMめがけて、屋上からサッカーボールが落ちてくるぞ。 バスドラは、水平に牛乳ビンが飛んでくるぞ。 なぁ。。。」と、私に、同意を求めてきたので、、、
「パーカッションリーダーが吹奏楽部でなかったら、やりかねませんね。。。」と言いたかったが、、、
「やりかねませんね。。。」だけにしておいた。
ある意味リアルな忠告に、女子達が意気消沈してしまったので、校内パレードはやらないことになった。
Gioachino Rossini Semiramide Overture Piccolo Excerpt Inteiro
https://www.youtube.com/watch?v=2hypnGtLvoo
面白かったのが、、、
パーカスリーダーが、今年のパーカス・アンサンブルは和太鼓でやる。 和太鼓も、地域から借りられるし、譜面も、リーダーが書くというのだ。
私は、事前に聞いていなかったので、、、 「まさか、今、思いついたんじゃないでしょうね。」
「お前、俺をなめてんのか! あ~? 企画を、温めてたんだよ。」
私は、、、 二年生に反対されて、潰されるのが恐くて、隠してやがったな。。。 と思ったが、、、
小学校時代に、リーダーが和太鼓の会で頑張っていたのを知っていたので、、、
賛成しようと思った矢先、、、
「和太鼓なんて、ばちをしっかり握って、思い切りぶっ叩けばいいんだよ。 ここのパーカスなら楽勝だよ。」とリーダーが言うので、、、
「和太鼓は、難しいと思いますよ。 太鼓を歌わせるというか、、、」
「そう、そこは難しい。 でも、お前たちならできるよ。」
楽勝なのか難しいのか、どっちなのかよく分からない話だが、、、 リーダーが、どうしてもやりたいのは分かったし、みんなの目が、、、 事前に、パート内で決めとけよ、、、 みたいになっているので、、、
私の「やっても、いいですよ。」で、、、 決定された。
私は、この時点では、本番が、あんなにすごいことになるとは思っていなかった。 我々の演奏が、すごいのではなくて、、、 すごかったのは、客席のほうだった。
和太鼓の会の人たちが、はっぴを着てハチマキで、、、 彼らは、その恰好をすると気合が入るらしく、、、 声援が、ものすごく。 応援団より声がでかい! 拍手や手拍子も半端ない。 それも、気合の入った真剣な表情でやってくれる。
パーカス・アンサンブルの時は、私たちの太鼓の音より、声援と拍手の方が大きかった。 和太鼓の会ここに有りっ! という感じだ。
また、律儀な人たちで、、、 吹奏楽部の、演奏が全部終わるまで帰らなかった。 すべての曲に盛大なというか、でかい音の拍手を送ってくれた。
Love is an Open Door - Frozen [flute/piccolo cover]
https://www.youtube.com/watch?v=TuC-abHcJDY
また、ここで、、、 リーダー会議に戻ろう。
フルートパートは、、、 フルート四重奏をやるという。
三曲の予定で、そのうち一曲はフルート×4で、いくそうだ。 そうすれば、ピッコロの一年生のフルートの練習にもなるという。
ところが、、、 練習を始めてみたら、おかしなことが起きた。。。
ピッコロの一年生は、この時、初めてフルートを吹いてみたのだが、、、
低い音が出ないのだ。
「スー」 という、息の音だけしか出ない!
彼女は、頑張って何とかしようとしているが、まともな音が出ない。
誰も、こんなことは予想していなかった。
結局、一か月ほど特訓をして、何とかできるようになったが。。。
普通、フルートからピッコロにいくと、、、 ピッコロの高音がまともに出なくて苦労する。 ところが、彼女の場合は、全く逆で、フルートの低音が出なかった。
みんな、これを見ていて不思議だった。 彼女が、この吹奏楽部に現れた時は、神か悪魔か、はたまた鬼か、、、と畏怖したが。
「スー」である。
「息の音しか出ない」のを見て、、、 彼女も普通の人間だったことを再認識した。 でも、この時、人間として認識するだけではなく、彼女は「一年生」なのだとしっかり認識しておくべきだった。
そうしていれば、あのステージの悲劇は起きなかっただろう。
【フルート4重奏】
フルート演奏 / 演奏してみた / フルートアンサンブル
https://www.youtube.com/watch?v=G6jsHgza2no
彼女の、あのステージでの「星条旗よ永遠なれ」のソロの失敗。。。 乱れ始めたら、そのまま、坂道を転げ落ちて奈落の底へ。
彼女の、過剰な責任感もあるだろうが、、、
やはり、「一年生」だったのだ。
この時は、普通であれば、トラウマになってしまうほどの精神的なダメージを受けている。
しかし、驚くほど、立ち直りが早かった。 三日後には、彼女は何事もなかったかのごとく振舞っていた。
そして、その後、彼女が大きなミスを犯すことはなかったのだ。
このことは、常識的には考えられないことだ。
まず、立ち直りが早かったことは、、、 徹底した心のケアによる。
両親と祖父。 そして、吹奏楽部の存在も大きかった。
翌日の練習に出てきた彼女も立派だったが、、、 みんなが温かく迎えたこと、、、 そして、特筆すべきは、部長の配慮である。
この日、部長命令が発せられた!
内容は、、、「フルートパートの二年生と三年生は、二週間、部活が終わったら、彼女を自宅まで送り届ける事。」
何のことはない。 みんなで、おしゃべりしながら帰るだけのことなのだが、、、 この、効果も大きかったと思う。
しかし、部長命令がなかったとしても、、、 フルートパートは、同じことをしただろう。
実は、部長命令の真意は、ほかの所にあった。
ただでさえ、迷惑をかけていると思っている彼女が、、、 送ってもらうことを申し訳なく負担に感じてしまう。 その気持ちを、強制力で押し切ったのだ! 彼女の心の負担を半減するために。。。
気配りの部長は、心理学者であった。 部長はこの時、中学三年生である。
すごい!としか言いようがない。。。
https://www.youtube.com/watch?v=2MUXsXg9Tyg
もうひとつの、、、 その後、彼女が大きなミスをしなくなったのは、、、
意外であった。 なんと、フルートパートの二人の先輩のアドバイスなのだ。 このことは、メールで彼女本人が言っている。
パートリーダーが、、、「ミスした時は、、、慌てては、かえって良くないので、ちょっと演奏を止めて、次の、切の良いところから、吹くのよ。 」と言うと、二年生の先輩が、「一度、深呼吸をしてからでもいいくらいよね。」
なんと、悠長な。。。
しかし、たしかに、このアドバイスの心理効果は大きいと思う。
最悪の事態をさける方法があるという保険。。。
保険に入れば、心にゆとりが生まれる!
さすがは、立て直しのスペシャリスト達である。。。
Béla Bartòk: Romanian Dances for piccolo and piano
https://www.youtube.com/watch?v=wc6vKqBO-gU
ピッコロの一年生は、部活のなかで、このころからバッグを持ち歩くようになった。
中には、ピッコロとフルート、ほかは、譜面、教則本、タオル、ピッコロの中の結露を取る道具。 フルートは、半分近く外に出ていたが、、、
この量だと、バッグがなければ移動できそうもない。
座奏の場合は、脇にバッグを置いていた。 バッグの中に、フルートとピッコロを立てる仕掛けがあって、曲の途中でもフルートとピッコロを持ちかえて吹けるようにしていた。
つづく
The Joyful Birdie for piccolo & piano by Hans-André Stamm
https://www.youtube.com/watch?v=LNzMxQsgKtE